スマホメニュー

法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正の概要

30・8・12

1 民法の一部を改正する法律案と立法理由について

平成27年3月31日,第189回国会に,「民法の一部を改正する法律案」と「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が提出され,平成29年4月14日に衆議院で可決され,同年5月26日に参議院でも可決成立し,同年6月2日に公布されました。改正法は,一部を除き,2020年4月1日から施行されます。
このうち,民法の一部を改正する法律案の立法理由としては,「社会経済情勢の変化に鑑み,消滅時効の統一化等の時効に関する規定の整備,法定利率を変動させる規定の新設,保証人保護を図るための保証債務に関する規定の整備,定型約款に関する規定の新設等を行う必要がある,これが,この法律案を提出する理由である。」とされています。
改正法については,詳細な解説を本ホームページで公表していますので,本概要においては,上記の4つに絞って,その簡単な解説をします。

2 消滅時効の統一化等の時効に関する規定の整備

民法改正法の166条1項は,債権の消滅時効期間を主観的起算点(権利行使をすることができることを知った時)から5年,客観的起算点(権利行使することができる時)から10年としました。
それに伴い,職業別の短期消滅時効(現行法170条〜174条)の規定や商事時効に関する商法522条の規定を廃止しました。
ところで,労働者の賃金債権については,民法174条1号によって1年の短期消滅時効にかかる旨が規定され,労働者保護のために,労働基準法115条で消滅時効期間が2年になっています。今回の改正によって174条が廃止されたので,賃金債権の消滅時効期間がどうなるのかが注目されますが,民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律には,労働基準法115条の消滅時効期間を伸長する旨の規定がないため,従来どおり,2年の消滅時効に服するものと考えられます。
なお,時効の中断などの規定も整理され,時効の完成猶予と更新という制度があらたに設けられました。詳しくは,本ホームページの該当箇所をご覧下さい。

3 法定利率を変動させる規定の新設

法定利率については,民事は5パーセント,商事は6パーセントという固定利率から,ゆるやかな変動制に移行することとしました。すなわち,当初の利率を3パーセントとし,その後は3年ごとに短期貸付の平均利率が1パーセント以上変動した場合に限って,1パーセント刻みで変動させるという規定が設けられたのです。
ただ,適用される固定利率の基準時は,原則として利息発生時です。
また,中間利息控除についても,請求権発生時の法定利率によることとなりました。そのため,5パーセントで中間利息控除がなされていた従来の中間利息控除額に比べて,改正後は,中間利息控除額が減少し,結果として損害賠償額が高額になることが考えられます。この点についても,詳しくは,本ホームページの該当箇所をご覧下さい。

4 保証人保護を図るための保証債務に関する規定の整備

個人の連帯保証人が事業者の債務を連帯保証した結果,事業者の倒産に伴って連鎖倒産する事例が頻発していたことから,個人の連帯保証人に自発的な保証意思があることを確認した上で,保証契約を締結するための新たな規律が設けられました。そのような場合には,連帯保証人となる者が,その1か月以内に公証役場において,公正証書によって,保証意思を明確にしなければならないことにしたのです。
また,主たる債務者が根保証の委託をする場合の,連帯保証人予定者への情報提供義務を課すなどの手当てをするなど,一定の保証人保護の規定を設けております。この点についても,詳しくは,本ホームページの該当箇所をご覧下さい。

5 定型約款に関する規定の新設

鉄道事業や郵便事業などで広く行われている約款取引について,これまで民法に規定がありませんでした。そこで,今回,定型取引や定型約款の定義規定を置き,合意擬制や約款の一方的な変更などに関するルールを設けました。この点についても,詳しくは,本ホームページの該当箇所をご覧下さい。

6 その他

上記以外にも改正箇所は多数ありますが,全体を見てみると,「従来の判例法理を条文化した規定」が多いように思われます。たとえば,①意思能力を有しなかった者がした法律行為の無効,②将来発生する債権の譲渡や担保設定が可能であることの明文化,③賃貸借終了時における賃借人の敷金返還請求権や原状回復義務に関する規定などです。

しかし,「現在のルールを実質的に変更したもの」として,①職業別の短期消滅時効の特例等を廃止し,それにともなって消滅時効の起算点及び期間の見直し,②年5パーセントの法定利率の年3パーセントへの引き下げ及び市中の金利動向に合わせた変動制の導入,③事業用融資の保証人になろうとする個人についての公証人による保証意思確認手続の創設,④貸金等根保証契約以外の根保証全般につき,極度額の定めを設けないと根保証契約が無効になること(これによって,賃借人の保証や介護施設入居者の各種債務の保証などについても,極度額の定めがないと根保証契約そのものが無効となります。),⑤不特定多数の者を相手方とする定型的な取引に使用される約款を用いた取引に関する規律の創設などがあります。

このような,「現在のルールを実質的に変更したもの」については,少なからず実務に影響を与えるものと考えます。

以上。