スマホメニュー

法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(5) 第7 消滅時効

(6)承認による時効の更新

152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
   2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
(解説)

旧民法147条3号は,時効中断の事由として「承認」を挙げていました。また,旧民法156条は,「承認」に関し,権利の処分につき,行為能力や権限が不要である旨規定していました。
これは,時効の承認を行っても,権利を失うわけではなく,単に相手の権利をそのまま認める効果が生じるにすぎないからだと説明されています(内田民法Ⅰ324頁)。しかし,財産管理能力は必要と解されています(同上)。
改正民法152条の規定は,このような旧民法の条項を,承認による更新につき,実質的に維持したものと思われます。

(7)時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲①

153条 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

   2 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間でのみ、その効力を有する。

   3 前条の規定による時効の更新は、更新事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
(解説)

時効の中断に関し,旧法148条は,時効の相対効を定めていましたが,これを時効の完成猶予にも及ぼし,時効の障害事由全般に拡張しています。

(8)時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲②

154条  第148条第1項各号又は第149条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
(解説)

時効中断の効力につき,さきほど掲げた旧民法148条は,「・・時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人においてのみ,その効力を生じる。」と規定し,それを受けて,旧民法155条は,改正民法154条と同様の規定を設けていました。
旧法の規定の趣旨は,時効の利益を受ける者が知らない間に時効中断の効力が生じないように設けられた規定だと解されていました。
改正民法154条の条項も,同様の効力を更新や完成猶予に関して,旧民法155条と同様の規定を置いたものです。

(9)天災等による時効の完成猶予

161条  時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第147条1項各号又は第148条第1項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(解説)

旧法で時効の停止と呼ばれていた制度は,時効の完成猶予事由とされ,改正法では,時効の更新を伴わない完成猶予という整理がなされました。
ところで,時効の停止事由とされていた民法161条は,天災等による時効停止につき,障害が消滅してから2週間のみ時効が停止するとされていました。
その点につき,改正法161条は,時効の完成猶予につき,これまでの震災等の経験を踏まえ,その期間を2週間から3か月間に伸長しました。

7 時効の援用
消滅時効について、民法第145条の規律を次のように改める。

145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(解説)

時効の援用をめぐり,時効制度をどのように理解するかとの関係で,援用の法的な性質について,学説の対立があります。
判例は,停止条件説を取るものと思われますが(内田Ⅰ329頁),改正法でもその性質は明らかにされず,援用権者の範囲も解釈に委ねられました。
ただ,「保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。」として,援用権者の範囲を例示列挙しました。
これまでの判例は,「時効によって直接利益を受ける者」という枠組みで援用権者か否かの判断がなされていましたが,同じ基準による判断でありながら,かつての判例では,「物上保証人は援用権者でない。」とされ,その後の判例では,「物上保証人は援用権者である。」とされる(最高裁昭和48年12月14日判決)など,結論が異なることから,直接利益を受ける者との基準に対する批判がなされていました。このようなことから,改正法は,「権利の消滅について正当な利益を有する者」という基準を設けるとともに,当事者以外の援用権者につき,例示列挙をしたものと思われます。

以上