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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(10) 第15 債権者代位権

5 相手方の抗弁
相手方の抗弁について,次のような規律を設ける。

423条の4 債権者が被代位権利を行使したときは,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗することができる。
(解説)

債権者は,自己の名で代位権を行使しているとはいっても,行使しているのは,債務者の権利です。従って,第三債務者は,債務者が権利行使する場合に比べて不利な地位におかれるべきではありません。
改正法は,このような当然のことがらを,「相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗できる。」と規定し,明文化しました。

6 債務者の取立てその他の処分の権限等
債務者の取立てその他の処分の権限等について,次のような規律を設ける。

423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者は,被代位権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては,相手方も,被代位権利について,債務者に対して履行をすることを妨げられない。
(解説)


旧法下の通説・判例(最判昭和14年5月16日)は,裁判上の代位に関する手続規定(非訟事件手続法88条2項及び同条3項)などをよりどころにして,債権者が代位権行使を債務者に通知するか,債務者がこれを知った後は,債務者はその権利の処分をできなくなると解していました(内田民法Ⅲ293頁参照)。
改正法は,このような考え方を変更し,代位権の行使があっても,債務者は,自ら第三債務者から取り立てをすることを妨げられず,第三債務者も,債務者に履行できることとしました。
その理由につき,立法担当者は,「もともと,債権者代位権は,債務者の権利行使の巧拙などには干渉することができず,債務者自ら権利行使をしない場合に限ってその行使が認められるものであること等から,債務者の処分権限を奪うのは過剰であるとの批判があるため,判例と異なる結論を明文化するものである。」(中間試案の補足説明157頁)と説明しています。
従って,債務者からそのような権限を奪うためには,仮差押などの措置を取る必要があります。

7 訴えによる債権者代位権の行使
訴えによる債権者代位権の行使について,次のような規律を設ける。

423条の6 債権者は,被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。
(解説)

債権者が訴えをもって債務者に属する権利を行使する場合の訴訟を「債権者代位訴訟」と呼ぶことがありますが,その訴訟の判決は,債務者に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。
そこで,債務者が債権者代位訴訟に関与する機会を保障するために,改正法は,債権者に訴訟告知(民事訴訟法53条)を義務付けました。

8 登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権
記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権について,次のような規律を設ける。

423条の7 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は,その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは,その権利を行使することができる。この場合においては,前3条の規定を準用する。
(解説)

金銭債権の保全以外に債権者代位権が用いられる場合は,責任財産の保全を目的とするとは言い難いのですが,判例は,このような,いわゆる債権者代位権の転用を認めています。
改正法は,そのような転用事例のうち,登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位の要件を,明文で定めています。
また,「前3条の規定を準用する。」として,代位権行使の範囲に関する423条の2の規定が準用されないことも明らかにしています。
改正法は,それ以外の転用事例は,解釈にゆだねたものと考えられます。

以上