スマホメニュー

法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(11) 第16 詐害行為取消権

30・8・14

本項が取り上げる範囲

第16 詐害行為取消権

第16 詐害行為取消権

1 受益者に対する詐害行為取消権の要件(民法第424条第1項関係)
旧民法第424条第1項の規律を次のように改める。

424条1項 債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは,この限りでない。
(解説)

詐害行為取消の基本的な要件を定めた規定です。詐害行為取消権については,旧民法には,424条から426条までの3か条しか規定がなく,判例の積み重ねによって詐害行為の要件及び効果が明らかにされていました。
しかし,平成16年に制定された破産法における否認の規定に比べ,詐害行為に関する判例の立場の方が詐害行為成立の要件が緩やかな(すなわち,厳格な平等弁済が要求される破産法における否認の要件より,容易に詐害行為が認められる)ケースが出るなど,バランスの問題なども生じ,改正法では,破産法の否認規定を参考に規定が整理されました。
また,詐害行為の対象となる行為も,民法424条1項では,「法律行為」となっていましたが,旧法下でも,判例は,弁済など厳密な意味では法律行為に該当しない行為も詐害行為取消権の対象としていました。改正法は,判例の趣旨を踏まえ詐害行為の対象を「行為」と改めるなど,所要の改正がなされています。

2 受益者に対する詐害行為取消権の要件(民法第424条第2項関係)
旧民法第424条第2項の規律を次のように改めるものとする。

424条2項 前項の規定は,財産権を目的としない行為については,適用しない。
  同条3項 債権者は,その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
  同条4項 債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,詐害行為取消請求をすることができない。
(解説)

第2項は,「法律行為」を「行為」と改めた以外,民法424条2項の規定を維持しています。
第3項は,債権者が詐害行為取消を請求できるのは,債権者の債権が,詐害行為の前の原因で生じたことを要する旨を規定しています。
詐害行為取消の制度は,責任財産保全の趣旨ですが,債権者が債権を取得するより前の行為で債権者が害されるおそれなどないので,そのような債権者に債務者の財産管理行為に介入するのはいきすぎであるとの判断のもと,この要件を課したものです。その基準時を,改正法は,「詐害行為前の原因に基づいて生じた債権」ならよいとしているのです。
第4項は,詐害行為取消制度が,債務者の責任財産を保全して強制執行の準備をするものであることから,強制執行によって実現できない債権をもとに詐害行為取消しを求めることができないものとしました。

3 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則
相当の対価を得てした財産の処分行為について,次のような規律を設ける。

424条の2 債務者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,受益者から相当の対価を取得しているときは,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
     1 その行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,債務者において隠匿,無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
     2 債務者が,その行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
     3 受益者が,その行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
(解説)

破産に至らない場合に比べ,破産の場合には,より債権者平等の要請が強く働くものと思われます。ところが,旧民法の詐害行為取消しの規定はわずかである上その要件も抽象的であったため,平成16年制定の破産法における否認制度が類型化して詳細な規定を置いているのに比べ,条文上,詐害行為取消しの方が容易に成立するのではないかとの指摘がありました。
そこで,改正法は,相当な対価を得てした処分行為につき,破産法161条1項と同じ厳格な規律を定め,原則として詐害行為性を否定した上で,1号から3号までの三つの要件をすべて満たした場合に,例外的に詐害行為による取消しを認めることとしました。

4 特定の債権者に対する担保の供与等の特則
特定の債権者に対する担保の供与等について,次のような規律を設ける。

424条の3 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,詐害行為取消請求をすることができる。
       1 その行為が,債務者が支払不能(債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項1号において同じ。)の時に行われたものであること。
       2 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

     2 前項に規定する行為が,債務者の義務に属せず,又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において,次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,債権者は,同項の規定にかかわらず,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
       1 その行為が,債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
       2 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
(解説)

民法の詐害行為取消しの制度に類似したものとして,破産法に規定する否認の制度があります。その破産法は,平成16年に全面改正され,一部の債権者に対する優先的な弁済行為(いわゆる「偏頗行為」のことです。)につき,債務者が支払い不能に陥る前は否認の対象としていません(破産法162条)。
ところが,民法の詐害行為取消権の規定では,特に支払い不能後しか詐害行為の取り消しができないという規定はありません。
そのため,破産手続き前の一般債権者であれば,詐害行為取消権を行使できるのに,より平等弁済が要求される破産手続きが開始すると,反対に,破産管財人は否認権を行使できないという,いわゆる逆転現象が生じてしまいました。
そこで,1項において,破産法との整合性に配慮し,債務者の弁済等の偏頗行為につき,支払い不能の要件をもうけたのです。
また,2項については,上記1項の行為のうち,その弁済等が義務に属さず,あるいはその弁済等の時期が義務に属さない場合(たとえば期限前の弁済)に,詐害行為の適用範囲を,支払不能になる前30日以内まで拡張したものです。破産法162条1項2号の規定と趣旨は共通しています。