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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(11) 第16 詐害行為取消権

5 過大な代物弁済等の特則
過大な代物弁済等について,次のような規律を設ける。

424条の4 債務者がした債務の消滅に関する行為であって,受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて,第424条に規定する要件に該当するときは,債権者は,前条1項の規定にかかわらず,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については,詐害行為取消請求をすることができる。

(解説)

過大な代物弁済なども,さきほどの424条の4の要件を満たせば,詐害行為取消しの対象となります。また,代物弁済は,弁済等が義務に属さない行為ですから,さきほどの424条の4の2項に該当します。
しかし,過大な代物弁済等の過大な部分については,424条の4の要件を満たさなくても,424条の詐害行為の要件を満たせば,取り消すことができるものとしました。過大部分については,債務者の計数上の財産状態を悪化させることになるからです。
ただ,その場合には,取り消されるのは,過大部分に限られますし,424条の要件を満たすことは必要です。

6 転得者に対する詐害行為取消権の要件
転得者に対する詐害行為取消権の要件について,次のような規律を設ける。

424条の5 債権者は,受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において,受益者に移転した財産を転得した者があるときは,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める場合に限り,その転得者に対しても,詐害行為取消請求をすることができる。
     1 その転得者が受益者から転得した者である場合
その転得者が,その転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
     2 その転得者が他の転得者から転得した者である場合
その転得者及びその前に転得した全ての転得者が,それぞれの転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
(解説)

詐害行為取消しの当事者は,債権者→債務者→受益者→転得者→転得者からの転得者・・・になります。
このうち,1号は,受益者からの転得者の場合を規律し,2号は,転得者からの転得者を規律しています。
いずれについても,受益者・転得者・転得者からの転得者のすべてが,債権者を害することを知っていること(以下「悪意」といいます。)が必要です。
受益者が善意で,転得者が悪意の場合に,債権者から転得者に対する取消権の行使を認めた判例(最判昭和49年12月12日判決)があるのですが,改正法はその結論を否定するものです。これは,破産法170条と同様の規律ですが,同法が要求する「前者に対する否認の原因のあることを知っていたとき」という,いわゆる二重の悪意については,問題も多く,改正法では,二重の悪意までは要求していません。なお,この点については,整備法において,破産法に関する所要の改正をしています。

7 詐害行為取消権の行使の方法
詐害行為取消権の行使の方法について,次のような規律を設ける。

424条の6 債権者は,受益者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。
     2 債権者は,転得者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,価額の償還を請求することができる。

427条の7 詐害行為取消請求に係る訴えについては,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
       1 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
       2 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者
     2 債権者は,詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。
(解説)

新設規定であり,従前の判例法理を明文化したものです。
ところで,詐害行為取消訴訟の法的性質につき,形成権説,請求権説及び折衷説の対立があり,判例は,折衷説の立場を取っていることについては,基本的な教科書で確認して下さい。
426条1項前段は,取消しという形成権の行使と財産の返還という請求権の行使の双方ができることを規定しており,折衷説の立場に立つことを明確にするものです。
また,424条1項後段は,判例と同様に,原則として現物の返還を要求し,現物返還が困難なときには,価格の償還を認めるものです。
424条の6の2項は,転得者につき,同条1項と同様の規律を定めるものです。
424条の7の1項は,詐害行為取消訴訟の被告が受益者または転得者であることを定め,債務者自身は被告にならないという,従前からの判例の立場を明文化したものです。
424条の7の2項は,債務者が被告になっていなくても,詐害行為取消訴訟の判決の効力が債務者にも及ぶ(425条を新設)ことから,債務者に対する訴訟告知を義務付け,詐害行為取消訴訟に関し,債務者に対する手続の保障をしたものです。

8 詐害行為の取消しの範囲
詐害行為の取消しの範囲について,次のような規律を設ける。

424条の8 債権者は,詐害行為取消請求をする場合において,債務者がした行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,当該行為の取消しを請求することができる。
     2 債権者が424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
(解説)

1項については,従来の判例が,目的物が金銭のように可分の場合には,取消債権者が損害を受ける限度でのみ取消しを肯定していましたが,本規定は,その判例法理を,「債権額を限度として」という形で明文化したものです。
また,2項は,受益者や転得者に価格償還請求をする場合にも,1項と同様の扱いをすることを規定しました。
しかし,詐害行為の客体が可分でない場合には,従来の判例と同様に,債権額と関係なく,詐害行為全部を取り消すことができます。

9 直接の引渡し等/span>
直接の引渡し等について,次のような規律を設ける。

424条の9 債権者は,424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において,その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは,受益者に対してその支払又は引渡しを,転得者に対してその引渡しを,自己に対してすることを求めることができる。この場合において,受益者又は転得者は,債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
     2 債権者が424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
(解説)

1項については,詐害行為取消権に基づき,金銭または動産を取り戻す場合には,受益者もしくは転得者に対する直接の取立てを認めるものです。
そして,受益者もしくは転得者が,金銭や動産を債権者に引き渡したときには,債務者に対する支払義務または引渡し義務を免れることも規定しました。
2項は,取消権者が直接受益者または転得者に対して価格償還請求をする場合にも,直接の取立権と受領権を認めています。