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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(14) 第19 債権譲渡 第20 有価証券 第21 債務引受 第22 契約上の地位の移転

第20 有価証券

1 有価証券の節の新設

旧民法469条ないし473条の規定を削除し,あらたに第7節として有価証券の節を設け,
第1款 指図証券       520条の2〜12
第2款 記名式所持人払証券  520条の13〜18
第3款 その他の記名証券   520条の19
第4款 無記名証券
の4つの款を設けました。
旧民法は,証券的債権に関する規定を設けていましたが,証券的債権に該当するものは現実にはほとんど存在しないと言われていました。
そこで,新法では,旧法等にあった関連規定をいったん全て削除した上で,その十実的な内容については一部は修正・追加はしつつも基本的にはこれを維持し,一体的な有価証券に関する規定を民法中に新設したのです(一問一答210頁)。
なお,新法は,有価証券を記名証券と無記名証券(第4款)に分類し,記名証券を更に①指図証券(1款),②記名式所持人払証券(2款),③その他の記名証券(3款)に細分化しています。

2 指図証券
(1) 指図証券の譲渡
旧民法第469条を削除し,これに代えて,指図証券の譲渡について,次のような規律を設ける。

520条の2 指図証券の譲渡は,その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ,その効力を生じない。

(解説)

指図証券とは,証券上に記載された者か,またはその者が指図する者を権利者とする証券のことを指します。裏書と譲受人への証券の交付が譲渡の効力要件であることが定められています。

(2) 指図証券の譲渡の裏書の方式,権利の推定,善意取得及び抗弁の制限 旧民法第472条を削除し,これに代えて,指図証券の譲渡の裏書の方式,権利の推定,善意取得及び抗弁の制限について,次のような規律を設ける。

520条の3 指図証券の譲渡については,その指図証券の性質に応じ,手形法(昭和7年法律第20号)中裏書の方式に関する規定を準用する。
520条の4 指図証券の所持人が裏書の連続によりその権利を証明するときは,その者は,証券上の権利を適法に有するものと推定する。
520条の5 何らかの事由により指図証券の占有を失った者がある場合において,その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは,その所持人は,その証券を返還する義務を負わない。ただし,その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは,この限りでない。
520条の6 指図証券の債務者は,その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き,その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。

(解説)

指図証券について,520条の3で手形法の裏書の規定の準用,同条の4で裏書の連続による権利の推定,同条の5で証券の善意取得,同条の6で人的抗弁の切断などを規定しています。

(3) 指図証券の質入れ
旧民法第363条及び同第365条を削除し,これに代えて,指図証券の質入れについて,次のような規律を設ける。

520条の7 520条の2から前条までの規定は,指図証券を目的とする質権の目設定について準用する。

(解説)

指図証券を質入れする場合に,520条の2から520条の6までの規定を準用しています。指図債権の質入れについては,指図債権の譲渡と同様の取り扱いをする趣旨です。

(4) 指図証券の弁済の場所,証券の提示による履行遅滞及び債務者の調査の権利等
旧民法第470条を削除し,これに代えて,指図証券の弁済の場所,証券の提示による履行遅滞及び債務者の調査の権利等について,次のような規律を設ける。

520条の8 指図証券の弁済は,債務者の現在の住所においてしなければならない。
520条の9 指図証券の債務者は,その債務の履行について期限の定めがあるときであっても,その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行の請求をした時から遅滞の責任を負う。
520条の10 指図証券の債務者は,その証券の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。

(解説)

指図証券の弁済の場所(520条の8),証券の提示による履行遅滞(520条の9),債務者の調査権と弁済(520条の10)について規定しています。

(5) 指図証券の喪失及びその場合の権利行使方法
指図証券の喪失及びその場合の権利行使方法について,次のような規律を設ける。

520条の11 指図証券は,非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第100条に規定する公示催告手続によって無効とすることができる。
520条の12 金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする指図証券の所持人がその指図証券を喪失した場合において,非訟事件手続法第114条に規定する公示催告の申立てをしたときは,その債務者に,その債務の目的物を供託させ,又は相当の担保を供してその指図証券の趣旨に従い履行をさせることができる。

(解説)

指図証券を喪失と公示催告手続について規定しています。なお,520条の11の新設により,民法施行法57条の公示催告手続の規定は削除されます。

2 記名式所持人払証券
旧民法第471条を削除し,これに代えて,記名式所持人払証券について,次のような規律を設ける。

520条の13 記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって,その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下同じ。)の譲渡は,その証券を交付しなければ,その効力を生じない。
520条の14 記名式所持人払証券の所持人は,証券上の権利を適法に有するものと推定する。
520条の15 何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において,その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは,当該所持人は,その証券を返還する義務を負わない。ただし,その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは,この限りでない。
520条の16 記名式所持人払証券の債務者は,その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き,その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
520条の17 第520条の13から前条までの規定は,記名式所持人払証券を質権の目的とする質権設定について準用する。
520条の18 第520条の8から第520条の12までの規定は,記名式所持人払証券について準用する。

(解説)

記名式書所持人払証券について,証券の交付が譲渡の効力要件であること(520条の13),所持人に対する権利の推定(520条の14),善意取得(520条の15),人的抗弁の切断(520条の16)を定め,520条の17では,520条の」13から同条の16までの規定を質権の設定に付いて準用しています。 また,520条の18では,520条の8から12までの規定を記名式所持人払証券に準用しています。

3 指図証券及び記名式所持人払証券以外の記名証券
指図証券及び記名式所持人払証券以外の記名証券について,次のような規律を設ける。

520条の19 債権者を指名する記載がされている証券であって指図証券及び記名式所持人払証券以外のものは,債権の譲渡又はこれを目的とする質権の設定に関する方式に従い,かつ,その効力をもってのみ,譲渡し,又は質権の目的とすることができる。
      2 第520条の11及び第520条の12の規定は,前項の証券について準用する。

(解説)

債権者を指名する記載がされている証券であって,指図証券及び記名式所持人払証券以外のものについて,債権譲渡またはこれを目的とする質権設定の方式に従い,かつ,その効力をもってのみ譲渡又は質入れの目的とできることを規定しました。ただ,証券の喪失については,指図証券に関する公示催告の規定(520条の11及び12)を準用しています。

4 無記名証券
旧民法第86条第3項及び同第473条を削除し,これに代えて,無記名証券について,次のような規律を設ける。

520条の20 第2款の規定は,無記名証券について準用する。

(解説)

電車の乗車券,デパートの商品券などのような無記名証券について,旧民法86条3項はこれを動産とみなしていました。しかし,改正法はその規定などを削除し,無記名証券に,記名式所持人払証券に関する第2款の規定を準用することにしました。