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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(20) 第33 賃貸借

8 賃貸物の修繕等(民法第606条第1項関係)
民法第606条第1項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限りでない。
(2) 賃貸物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当するときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
ア 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
イ 急迫の事情があるとき。 」
(解説)

(1)は、民法606条1項の規定を維持するとともに、但書を追加しました。但書には、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、賃貸人が修繕義務を負わない旨が規定されていますが、通説を明文化したものです。
なお、中間試案の補足説明458頁においては、賃借人の帰責事由による場合には、①賃料は減額されず、②賃貸人の修繕義務は発生せず、③賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権は発生せず、④賃借人の原状回復義務は発生する、と整理されています。
また、賃借人の帰責事由によらない場合には、①賃料は減額される、②賃貸人の修繕義務は発生する、③賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権は発生する、④賃借人の原状回復義務は発生しない、と整理されています。
(2)は、賃借人が、アとイの場合には、賃借人において修繕ができる旨を規定しています。賃借物は、賃貸人の所有に属するため、その修繕といえどもその所有権に対する不当な干渉となりうるので、このような規定を置いたものです。

9 減収による賃料の減額請求等(民法第609条・第610条関係)
民法第609条及び第610条を削除するものとする。
(解説)

削除する各条項は、戦後の農地改革以前の小作関係を想定したものであり、現在は農地法20条があるため、実質的にその機能を失っているとの指摘があります。また農地法20条や借地借家法11条のように経済事情の変動や近傍類似の土地の賃料と比較して不相当となったか否かと無関係に、本条は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たことのみを要件としていることなどの不合理な点があるとの指摘もあります。
このようなことを踏まえ、本条が削除されることとなりました(中間試案の補足説明459頁)。

10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係)
民法第611条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
(2) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。 」
(解説)

民法611条は、賃借物の一部滅失が賃借人の過失によらない場合に、賃料減額請求権を認めていました。改正法は、(1)において、一部滅失の場合に限定せず、使用収益をすることができない事由によるものである場合一般に適用することに改めるとともに、減額請求ではなく、当然に減額されるものとしました。また、賃借人の過失によらないとの規定も、賃借人の責めに帰することができない事由と改めています。
さらに、要綱は、(2)において、使用収益ができないことによって、残存部分では、賃借の目的を達することができない場合に、契約解除を認めています。この解除については、賃借人に責めに帰すべき事由に関係なくできます。解除が契約関係からの解放であるとする改正法の考え方によるものであり、解除後の利害関係の調整は、損害賠償等で行うことになります。

11 転貸の効果(民法第613条関係)
民法第613条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と転貸人との間の賃貸借に基づく債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。
(2) (1)の場合において、転借人は、転貸借契約に定めた当期の賃料を前期の賃料の弁済期以前に支払ったことをもって賃貸人に対抗することができない。
(3) (1)及び(2)の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
(4) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、転貸人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、当該解除の当時、転貸人の債務不履行により賃貸人と転貸人との間の賃貸借を解除することができたときは、この限りでない。 」
(解説)

(1)は、民法613条1項前段の規定と同趣旨ですが、転借人が賃貸人に対して直接義務を負う範囲は、賃貸人と転貸人との間の賃貸借契約に基づく債務の範囲を限度としています。
(2)は、民法613条1項後段の賃料前払いについて、要綱は、転貸借契約に定めた当期の賃料を前期の賃料の弁済期以前に支払ったこと、と具体的に定めました。
(3)は、民法613条2項と同じ規定です。
(4)は、適法に転貸借がなされた場合に、賃貸人と転貸人との合意解除をもって転借人に対抗できないとの判例法理を明文化するとともに、合意解除の当時、転貸人に債務不履行事由があり、解除できた場合には、合意解除をもって転借人に対抗できるとの判例法理を明文化しました。

12 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了
賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について、次のような規律を設けるものとする。

「 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。」
(解説)

賃貸物件が全部滅失して、使用収益ができなくなった場合には、賃貸借契約が終了することを規定しています。
判例(最判昭和32年12月3日)の法理を明文化したものです。
賃貸借契約は目的物を使用収益できることを契約の要素とする以上、使用収益の対象である賃貸目的物が消滅したときは、もはや契約を維持する意味がなくなるとの考慮に出たものです(潮見債権各論Ⅰ146頁、内田民法Ⅱ245〜246頁参照)。

13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係)
民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
(2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
(3) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3) において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
(解説)

(1)は、賃貸借契約終了時の賃借人の収去義務を規定するものです。収去義務の対象となるのは、賃借人が賃借物を受け取った後にこれに附属させた物ですが、①賃借物から分離できない物、②分離するのに過分の費用を要する物については、収去義務の例外となります。
(2)は、附属物について、賃借人の収去権の観点から規定したものです。
(3)は、賃借人が賃借物を受け取った後に生じた損傷につき、賃貸借終了時に原状回復する義務があることを規定したものです。
但し、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については、原状回復義務がないことを、括弧書で明記しています。判例の立場(最判平成17年12月16日)を明文化したものです。
また、賃借人の責めに帰することができない事情による損傷についても、原状回復義務がない旨規定されています。

14 損害賠償の請求権に関する期間制限(民法第621条・第600条関係)
民法第621条(同法第600条の準用)に次の規律を付け加えるものとする。

「民法第621条が準用する同法第600条に規定する損害賠償の請求権については、賃貸人が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」
(解説)

民法621条が準用する同法600条の規定をそのまま維持しました。
その上で、民法600条が規定する、「契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償」請求権について、賃貸目的物の返還を受けたときから1年間は、時効の完成を猶予することとしました。
上記損害の典型例は、用法順守義務違反による損害賠償請求権ですが、賃貸目的物が返還されるまでは、用法順守義務に違反していたか否かは判明しない場合が多く、返還前にその損害賠償請求権が時効消滅してしまうことが予想されるため、このような時効完成猶予の規定を設けたのです。

以上