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法改正のコーナー

商事関係事件についての知識

平成26年の改正会社法について

27・7・4

1 改正の経緯

18年の会社法制定後の会社を取り巻く状況の変化を踏まえ、法務大臣からの諮問に答える形で、法制審議会(会社法制部会)から平成24年9月7日に要綱案が答申され,これを受けて,会社法の一部を改正する法律(以下「改正会社法」と呼びます。)が,平成26年6月に国会で可決・成立し,同月27日に公布されました。

なお,改正会社法は,平成27年5月1日に施行されています。

2 改正の目的

改正会社法は,コーポレート・ガバナンスの強化と親子会社に関する規律の整備を目的とするもので,主要な改正規定として,①新たな機関設計である監査等委員会設置会社の創設,②社外取締役を選任しない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由の株主総会における説明義務の新設,③社外取締役等の要件の厳格化,④会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権を監査役または監査役会に付与すること,⑤完全親会社の株主がその完全子会社の取締役等の責任を追及する訴えを提起することを認める多重代表訴訟制度の創設,⑥株主による合併等の組織再編の差止請求制度の拡充,⑦詐害的な会社分割により害される債権者保護規定の創設などがあげられています(一問一答平成26年改正会社法3頁)。

このような改正がなされた一方で,懸案であった社外取締役選任の義務化は見送られています。そのかわりに,社外取締役を置くことを促進させるために,上記②の規定を置いたのです。

3 社外取締役選任の義務化の見送りと社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務化

コーポレート・ガバナンスの強化のための重要な方策の一つと考えられていた「社外取締役選任の義務化」は見送りになりました。
しかし,事業年度の末日において監査役会設置会社(ただし、公開会社であり,かつ,大会社であるものに限ります)であって,金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しないといけない株式会社に社外取締役が存在しない場合には、その会社の取締役は,その事業年度の定時株主総会において,社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないこととしました(会社法327条の2)。

このようにして,定時株主総会において,上記の内容を説明させることにより,いまだ社外取締役を置いていないことにつき,その当否を株主に検討してもらうこととしたのです。
このような改正の流れを受け,東京証券取引所も,上場会社において,取締役である独立役員を少なくとも1名以上を確保するよう努めなければならない」ものとしています(上場規定第445条の4)。

4 監査等委員会設置会社の設置

改正会社法は,監査等委員会設置会社の制度を置くことにしました。従来型の機関形態(監査役会設置会社でかつ会計監査人設置会社である形態)と委員会設置会社(ただし,改正会社法により,「指名委員会等設置会社」に名称変更しました。)に加え、第三の形態として監査等委員会設置会社の制度が用意されたのです。

5 監査等委員会設置会社の特色

監査等委員会は,3人以上の取締役から成り,その過半数が社外取締役によって構成されます。

そして,代表取締役をはじめとする業務執行役員を監督する役目を,監査等委員会が担うことになるのです。業務執行者を含む取締役の人事に関して,株主総会における意見陳述権も保障されています。 そのため,監査等委員会設置会社では,監査役を置いてはならないものとされています(会社法327条4項)。
その結果,監査等委員会設置会社の機関は,以下のとおりとなります。

  1. 1 監査等委員会
  2. 2 取締役会(会社法327条1項3号)
  3. 3 代表取締役
  4. 4 会計監査人(会社法327条5項)
  5. 6 株主総会

業務執行と監査・監督を分離するという観点から,監査等委員会設置会社においては,監査は,3人以上の取締役からなり,かつその過半数を社外取締役とする監査等委員会が行い,業務執行は,監査等委員会以外の取締役が行うこととされています。
具体的には,業務執行を行う取締役は,代表取締役および代表取締役以外の取締役であって取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選定されたものが行うことになっています(会社法363条1項各号)。

この新しい制度が,どの程度普及するかを今後見守る必要があります。

6 社外取締役等の要件の厳格化

改正法では,社外取締役の要件を厳格化し,株式会社の親会社等の関係者及び兄弟会社の業務執行者や,株式会社の一定の業務執行者等の近親者は,当該株式会社の社外取締役になることができないこととしています(2条15号ハ〜ホ)。

その一方では,取締役への就任前に株式会社またはその子会社の使用人等であっても,一定期間離れていれば,社外取締役となる道を開きました(同号イ,ロ)。
社外監査役の要件についても,同様に改正しています(同条16号)。

7 会計監査人の選解任等

監査役(監査役会設置会社では監査役会)は、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容についての決定権を有することとしました(会社法344条)。従前は,監査役等には,同意権や提案権しかなかったのですが,会計監査人の独立性を確保する観点から,このような改正がなされました。

8 多重代表訴訟制度の創設

取締役等の行為によって会社に損害が生じた場合、その責任を追及するのは、本来、会社であって株主ではありません。しかし、取締役間の同僚意識などで、会社から当該取締役に対してその責任が追及されない場合、最終的に会社財産の喪失により、株主自身も被害を受けることになります。

そのような場合に、株主が会社を代表して当該取締役に対して訴訟を提起することを可能にしたのが、代表訴訟の制度です。

しかし、ここで、親会社Aと同社が100パーセントの株式を持つ子会社Bがある場合に、子会社Bの取締役が不正を働いたときにはどうなるでしょうか。親会社と子会社とは、取締役が重なっている場合が多いですし、子会社Bの株主は親会社Aそのものです。親会社Aの株主そのものは、別会社である子会社Bの株主ではありませんから、子会社Bの取締役に対して代表訴訟を提起できません(通説)。

そのような事態を避けるため、一定の厳格な要件をもとに、親会社Aの株主が子会社Bの取締役に対して代表訴訟の提起を可能にしたのが、多重代表訴訟の制度です(847条の3)。

9 その他

その他、略式組織再編以外の通常の組織再編についても差止請求の明文を置いたこと,詐害的な会社分割等における債権者保護制度の新設(759条4項等)があります。

また,いわゆるキャッシュアウト(現金を対価とする少数株主の締め出し)に関し,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上の有する株主(特別支配株主と呼びます。)から株主総会の決議なしに株式等売渡請求を認める制度を設けました。

それ以外にも,ご紹介できなかった改正規定が多数ありますので、詳しくは一問一答平成26年改正会社法などの解説本やインターネット情報をご覧ください。

以上。