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法改正のコーナー

刑法と刑事訴訟法について

性犯罪に関する処罰規定の見直し(平成29年7月の刑法等改正)

平成29年7月24日

1 刑法の改正について

刑法は,明治40年に成立した法律で,強姦罪についての規定は基本的に現在まで維持され,①昭和33年の,いわゆる輪姦形態による強姦罪等(集団強姦等罪)の非親告罪化,②平成16年の強姦罪等の法定刑の引き上げ(強姦罪の法定刑が,2年以上の有期懲役から3年以上となった)等がなされただけで,明治時代に規定された強姦罪等の規定は,抜本的な改正がなされないままに推移していました。

これらの性犯罪に関する処罰規定が,近時の性犯罪の実態とあまりにも乖離しているのではないかとの指摘があり,強姦罪の見直し等,性犯罪に関する処罰規定の見直しが検討されたのです。

その成果が,平成29年6月16日成立の刑法等改正となってあらわれました。(施行日は,同年7月13日です。)

また,非親告罪化の規定については,処罰条件にすぎないとの考え方から,遡及適用されることとなりました。

2 改正刑法等の内容

(1)強姦罪(刑法177条)から「強制性交等罪」への改正

刑法177条の強姦罪の構成要件を見直して「強制性交等罪」とし,その法定刑も3年以上から5年以上の懲役刑に引き上げられました。

すなわち,明治刑法以来の「強姦」の定義は,男性の陰茎を女性の性器に没入させるというもので,被害者は女性に限られていました。
ですから,男性を被害者とする肛門性交などは「強姦」の定義からはずれるので,強姦罪より法定刑の低い「強制わいせつ罪」で処罰されていました。

しかし,強制的な性交渉によって肉体的,精神的に重大な苦痛を伴うのは,女性だけでなく男性も同様であるとの認識から,改正法は,強姦罪の罪名を廃止し,「強制性交等」という新しい性犯罪の構成要件の規定を置きました。

この「強制性交等罪」とは,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は,被害者が女性であるか男性であるかを問わず,「性交等をした者」として,「強制性交等罪」という新しい類型の構成要件に該当し,5年以上の有期懲役に処することとしたのです。

なお,13歳未満の者に対し,性交等をした者も同様とする,とされています。(13歳未満の者に対しては,暴行や脅迫がなくても強制性交等罪が成立する趣旨で,従来の強姦罪にも同様の規定がありました。)

(2)集団強姦等罪(刑法178条の2)の規定の廃止

強姦罪を「強制性交等罪」とし,その法定刑を引き上げたことから,その法定刑のなかで,集団強姦等罪の適切な科刑をすることが可能であるとの認識から,集団強姦等罪の規定は廃止されました。

(3)監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の規定の新設

上記のとおり,13歳以上の者に対しては,暴行や脅迫がないと強姦罪で処罰することができないので,暴行・脅迫の立証が困難な事例では,強姦罪と比較して法定刑の低い,児童福祉法違反や各地方のいわゆる淫行防止条例で処罰するほかありませんでした。

そこで,18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用したわいせつ行為及び性交等に関する罰則を新設しました。

加害者の庇護のもとから離れることが難しい者に対する,監護者の影響力を利用したわいせつ行為や強制性交等は,強制わいせつ罪や強制性交等罪と同じぐらい重い処罰に値するとして,このような規定がもうけられたのです。

ここでいう「現に監護する者」には,親権者など法律上の監護権によるものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督・保護する立場にあれば,これに該当すると解釈されています。

(4)強盗強姦罪の規定の見直し

現行法では,強盗犯人がその機会に強姦した場合には,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑で処罰することができたのですが,強姦犯人がその機会に強盗をしても,重く処罰する規定がなく,併合罪として処理せざるを得ませんでした。

しかし,いずれも悪質な行為である強盗と強姦を,ともに同じ機会に行うことにおいて,その悪質性は同じはずであり,後者の場合も強盗強姦罪として処罰する必要があるとの認識のもと,強盗と強姦の先後を問わず,同一機会になされた強盗と強制性交等の罪を犯した者を,無期又は7年以上の有期懲役に処することとしました。さらに人を死亡させた場合には,死刑又は無期懲役としました。

3 残された課題

上記のとおり,現行刑法は,性交同意年齢を13歳に設定していますが,その同意年齢の引き上げは,監護者等性交罪の新設等により,少なくとも監護者の影響を受けた18歳未満の者には一定の保護があることなどを理由として見送られました。

また,強姦罪の立件を難しくしていた「暴行・脅迫」の要件の緩和も見送られました。

以上。