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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(7) 第10 履行請求権等 第11 債務不履行による損害賠償

30・8・14

本項が取り上げる範囲

第10 履行請求権等
第11 債務不履行による損害賠償

第10 履行請求権等

1 履行の不能
履行の不能について,次のような規律を設ける。

412条の2 債務の履行が契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない。
     2 契約に基づく債務の履行がその契約成立時に不能であったことは,第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
(解説)

1 1項について
債権の基本的な請求権として,債務の履行を請求する権利があることを前提として,その履行が不能となる場合を定めたものです。履行不能の場合に,その債務の履行を請求できなことは当然のこととされていましたが,それを明文で定めたものです。
また,旧法下の判例(大判大正2年5月12日)は,物理的不能に限らず,債務の発生原因となった契約に関する諸事情や取引上の社会通念を考慮して債務者に履行を期待することができない場合にも履行不能の範囲を拡張していました。そこ趣旨を受け,改正法は,その不能が,単に物理的な不能でなく,「債務の履行が契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されるとの規定を置きました。

2 2項について
旧法下では,このような原始的不能の場合に,債権者が債務者に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができるか否かについて,明文に規定を置いておらず,判例のなかには,原始的不能の場合には契約が無効であると判示するものもありました。従って,契約が無効であれば,債務不履行の成立する余地はなく,損害賠償請求もできないとする考え方が主流でした。
しかし,履行不能となった時期が契約成立の前か後かは,単なる偶然やごくわずかな時間差に左右されることがらであることから,それによって債務不履行に基づく損害賠償請求の可否を決するのは,債権者の救済がバランスを欠くとの配慮から,新法は,原始的不能の場合でも,債務不履行に基づく損害賠償請求をすることを妨げられないものとしました。
ただ,原始的不能であるのに契約が締結されていることから,動悸の錯誤を理由に契約が取り消される可能性はあり,この規定によってそのことまで否定されるものではないと考えられます(一問一答72頁注1参照)。

2 履行の強制(民法第414条関係)
(1) 民法第414条第1項関係
旧民法第414条第1項の規律を次のように改める。
「414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い,直接強制,代替執行,間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。」

(2) 旧民法第414条第2項・第3項関係
旧民法第414条第2項及び第3項を削除する。4項を2項に繰り上げる。
(解説)

旧民法414条1項を改正し,旧法の同条2項及び3項を削除することにより,民法と民事執行法の役割分担を明確にしたものです。