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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(14) 第19 債権譲渡 第20 有価証券 第21 債務引受 第22 契約上の地位の移転

30・8・16

本項が取り上げる範囲

第19 債権譲渡
第20 有価証券
第21 債務引受
第22 契約上の地位の移転

第19 債権譲渡

1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)
(1) 譲渡制限の意思表示の効力
民法第466条第2項の規律を次のように改めるものとする。

466条2項 当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。
     2 前項に規定する場合には,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

(解説)

譲渡制限の意思表示(以下,譲渡制限の合意による場合を念頭に置き,「債権譲渡禁止特約」とも呼ぶことにします。)に違反した場合の効力につき,旧法下での判例及び有力説は,物権的な効力を有すると解釈されていました。
しかし,債権譲渡禁止特約のような物権的な効力まで認めることは,債権の流動化や担保化にとって支障となるため,改正法は,1項において,譲渡制限の意思表示に違反しても,債権は移転する(すなわち,譲渡禁止特約は債権的な効力を有するにすぎない。)ことを明確にしました。
その上で,3項において,債務者の利益を保護するために,①債務の履行拒絶と,②譲渡人に対する弁済その他債務消滅行為を対抗できることとしました。
ですから,譲渡制限の意思表示に違反しても,債権は移転することになり,債権者はあくまで譲受人であり,譲受人が悪意・重過失があっても,債権者は譲受人ということになります。
ただ,上記のとおり,3項により,悪意・重過失の譲受人に対しては,債務者は,履行拒絶や譲渡人に対する債務消滅行為の対抗が可能ということになるのです。

(2) 譲渡制限の意思表示を悪意又は重過失の譲受人に対抗することができない場合
譲渡制限の意思表示を悪意又は重過失の譲受人に対抗することができない場合について,次のような規律を設ける。

466条4項 前項の規定は,債務者が債務を履行しない場合において,同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人に対する履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,その債務者については,適用しない。

(解説)

債務者が債務を履行せず,相当期間を定めて譲渡人への履行を催告してもその期間内に債務者が履行をしない場合には,そのような債務者まで保護する必要がないので,もはや譲渡制限特約をもって悪意・重過失の譲受人からの履行請求を拒むことができない(3項の規定を適用しない)こととしました。
債権者である譲受人が請求しても債務者が履行せず,かといって,譲渡人に履行するように催告しても履行しないというデッドロック状態を解消するための規定です。

(3) 譲渡制限の意思表示が付された債権の債務者の供託
譲渡制限の意思表示が付された債権の債務者の供託について,次のような規律を設ける。

466条の2 債務者は,譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは,その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所で定まる場合にあっては,譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
     2 前項の規定により供託をした債務者は,遅滞なく,譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
     3 第1項の規定により供託をした金銭は,譲受人に限り,還付を請求することができる。


466条の3 前条1項に規定する場合において,譲渡人について破産手続開始の決定があったときは,譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって,その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときであっても,債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては,同条第2項及び第3項の規定を準用する。

(解説)

466条の2は,譲渡制限特約付の金銭債権が譲渡された場合に,債務者は,譲受人の善意・悪意に関係なく,全額に相当する金額の供託することを認めました。
前記のとおり,譲渡制限特約付債権の譲渡の場合でも,特約に相対的な効力しかないので,債権者は譲受人であることが確定しているため,債権者不確知を理由とする供託ができません。そのため,このような供託事由を規定したものです。
供託したことは,債務者において,譲渡人及び譲受人に通知しなければなりません(2項)。
また,供託した金銭につき,譲受人に限って,還付の請求ができます(3項)。
466条の3は,譲渡人が破産した場合に,譲受人において債務者に対して供託請求を認めています。その場合に,466条の2の2項及び3項を準用し,供託したことを,債務者において,譲渡人及び譲受人に通知しなければならず,供託した金銭につき,譲受人に限って,還付の請求ができることとしました。

(4) 譲渡制限の意思表示が付された債権の差押え
譲渡制限の意思表示が付された債権の差押えについて,次のような規律を設ける。

466条の4 第466条第3項の規定は,その債権に対して強制執行をした差押債権者に対しては適用しない。
     2 前項の規定にかかわらず,譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示があることを知り,又は重大な過失により知らなかった場合において,その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。

(解説)

旧法下での最高裁昭和45年4月10日判決は,譲渡禁止特約が付いた債権の差押・転付命令について,債権者の善意悪意を問わず転付命令は有効としました。
当事者の合意のみで,執行禁止財産を作ることは許されないという趣旨です。
1項は,この判例の趣旨を明文化し,債権の強制執行には,466条3項の規定を適用しないものとしました。ただ,担保権実行としての差押への本項の適用については,解釈に委ねています。
2項は,債権者に悪意重過失があり,債務者において,譲渡禁止特約を対抗できる場合には,その債権者が持つ以上の権利を第三者である執行債権者に与える必要がないので,債務者は,その第三者に対して,履行拒絶や債務消滅事由を対抗できるものとしました。

(5) 預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力
預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力について,次のような規律を設ける。

466条の5 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は,第466条第2項の規定にかかわらず,その譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
     2 前項の規定は,譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては,適用しない。

(解説)

改正法466条2項の規定は,譲渡禁止特約の効力について,相対的な効力のみを認め,債務者に履行拒絶と債務消滅行為の坑弁のみを認めています。これに対し,本条1項は,預貯金債権について,譲渡禁止の意思表示につき,物権的な効果を認めています。
そのことは,改正法が「譲渡制限の意思表示は・・・譲受人その第三者に対抗することができる。」と規定しており,その規定ぶりが,譲渡禁止特約に物権的な効力があると解釈されていた旧民法466条2項但書と同様の規定の仕方をしていることからもわかります。
預貯金債権について,譲渡禁止特約に,例外的に物権的な効力を認めたのは,銀行預金等に譲渡禁止特約が付されていることは周知のことがらであり,銀行等の金融機関も,譲渡制限を前提にシステムを組んでおり,債権譲渡通知がなされることを前提にシステムを組み直すには膨大なコストを要することなどが理由であると思われます。
なお,2項は,預金債権を差し押さえた者に対しては,1項の規定は適用しないものと規定しています。旧法下でも,判例(最判昭和45年4月10日)は,譲渡制限が付された債権を差し押さえた債権者の差押債権者に対して,債務者が譲渡制限特約を対抗することはできないとしていたことから,この判例に従い,この規定は,譲渡制限特約が付された預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては適用しないとしています(一問一答173頁注2)。