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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(8) 第12 契約の解除 第13 危険負担

30・8・14

本項が取り上げる範囲

第12 契約の解除
第13 危険負担

第12 契約の解除

1 催告解除の要件(民法第541条関係)
民法第541条の規律を次のように改める。

541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,この限りでない。
(解説)

旧民法541条を維持した上で,不履行の部分がわずかである場合や契約目的を達成するために必須とはいえない附随的な義務の不履行等の軽微な義務違反が解除原因とはならないとする判例法理に基づき,但書を追加しています(一問一答236条,中間試案の補足説明133〜134頁)。
但し,但書の文言は,中間試案では「不履行が契約をした目的の達成を妨げるものでないときは,この限りでないものとする。」としていたのを,改正法では,「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,この限りではない。」としています。
ただ,次の2の無催告解除の要件①において,現行民法543条但書(「ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。」という規定)を削除していることから,改正法は,解除制度そのものへの従前の理解を,根本的に変えているものと思われます。
すなわち,債務不履行による解除の制度は,債務不履行による損害賠償の制度のように,債務者に対してその責任を追及する制度ではなく(従って,損害賠償請求の場合には必要な,債務者の帰責事由が,解除の場合には不要),債務不履行があった場合に,一定の要件のもとで,契約の拘束力から解放するための制度と捉えるのです。
但し,催告の期間を経過した時点における債務の不履行が軽微である場合には,但書によって契約解除はできず,債権者は,解除以外の手段で救済を受けるほかありません。
解除の要件である,「軽微」か否かは,契約や取引上の社会通念に照らして判断されることになりますが,具体的には,債務不履行の態様の軽微性と,違反された義務の軽微性などから判断されることになると考えられます。
従来の判例でも,解除権が発生するには要素たる債務の不履行でなければならないとしていました。ですから,改正案の但書は,そのような判例法理を明文化したとも言えます。
解除に帰責事由が不要であり,解除の可否は,債務の不履行が軽微か否かが重要な判断要素となるため,今後の判例の集積によって「軽微か否か」の基準が明らかになっていくものと思われます。

2 無催告解除の要件①(民法第542条・第543条関係)
民法第542条及び第543条の規律を次のように改める。

542条 次に掲げる場合には,債権者は,1の催告をすることなく,直ちに契約の解除をすることができる。
   1 債務の履行が不能であるとき。
   2 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
   3 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
   4 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
   5 前各号に掲げる場合のほか,債務者がその債務の履行をせず,債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
(解説)

催告を要せずに契約解除が出来る場合を列挙したものです。
1項は全部の履行不能の場合,2項は債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合,3項は一部の不能か,債務者が一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合に,残存する部分のみでは契約をした目的を達することが出来ない場合,4項は定期行為の履行期途過の場合に無催告解除を認めたもの(旧民法542条と同じ)です。
5項の規定は,上記各号に該当しない場合でも,「債権者がその履行を催告しても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」に,無催告解除を認めています。「その他婚姻を継続従い重大な事由」などと同じ,いわゆる受け皿規定です。
催告をしても,契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときには,債権者に対して,解除の前提として催告を要求することが無意味だからです。

3 無催告解除の要件②(民法第542条・第543条関係)
無催告解除の要件について,次のような規律を設ける。

542条2項 次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の一部の解除をすることができる。
     1 債務の一部の履行が不能であるとき。
     2 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(解説)

一部の履行不能や一部の履行拒絶を理由とする一部の無催告解除を認めたものです。この規定は,契約が可分であり,その一部分のみを解消することが可能な場合を対象としています(一問一答239頁注4)。

4 債権者に帰責事由がある場合の解除
債権者に帰責事由がある場合の解除について,次のような規律を設ける。

543条  債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は,前条による契約の解除をすることができない。
(解説)

改正法は,契約解除の要件として,債務者の帰責事由は不要との立場に立ちますが,その債務不履行が債権者の責に帰すべき事由による場合にまで,契約解除によって契約の拘束から解放するのは,相当ではないと考えました。
そこで,そのような場合には,催告解除も無催告解除も認めないものとしました。
債務不履行について債権者に帰責事由がある場合にまで債権者を契約の拘束力から解放することにすれば,債権者は故意に債務の履行を妨げた上で契約の拘束力を免れることが可能になり,信義則及び公平の観点から相当ではないため,債権者に帰責事由がある場合には契約解除をすることができないことにしたのです(一問一答235頁)。

5 契約の解除の効果(民法第545条関係)
民法第545条の規律を次のように改める。

545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。但し,第三者の権利を害することはできない(旧民法545条第1項と同文)。
   2 前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。(旧第545条第2項と同文)
   3 第1項本文の場合において,金銭以外の物を返還するときは,その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
   4 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
(解説)

1項と2項は,旧民法545条の1項及び2項と同じ規定です。
3項は,解除に伴って金銭以外の物を返還する場合に,それと平仄を合わせる形で果実の返還義務を定めています。
使用利益の返還については,それを返還すべきであるとした判例がありますが,改正法は,その点につき,解釈に委ねることとし,規定は置きませんでした。
4項は,旧民法545条3項と同じ規定です。

6 解除権者の故意等による解除権の消滅(民法第548条関係)
民法第548条の規律を次のように改めるものとする。

548条  解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。ただし,解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは,この限りでない。
(解説)

旧民法548条1項の「行為」とは「故意」の意味に解されていましたが,その点を明文であきらかにするとともに,但書を設けました。
但書を設けた趣旨は,本条によって解除権を消滅させる趣旨を解除権の放棄と捉え,その場合には,解除権を有することを知っていなければならないと考えたことによります。
また,旧民法548条2項は,1項から当然に導かれる結論なので,不要であるとして削除されるものです。