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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(20) 第33 賃貸借

27・6・11

本項が取り上げる範囲

第33 賃貸借

第33 賃貸借

1 賃貸借の成立(民法第601条関係)
民法第601条の規律を次のように改めるものとする。

「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」
(解説)

賃貸借契約の冒頭規定である民法601条について、従来から賃借人の債務の内容として言われていた、契約終了時の返還義務を加え、賃貸借契約の成立要件を整理したものです。

2 短期賃貸借(民法第602条関係)
民法第602条柱書の部分の規律を次のように改めるものとする。

「処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。」
(解説)

民法602条の規定から、「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言を削除しました。
「処分につき行為能力の制限を受けた者」とは、一般的に、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人を指しますが、これらの者が、本条が規定する短期賃貸借契約を有効に締結できるかどうかは、民法総則の行為能力の規定によって判断されます。
従って、賃貸借の規定の中にそのような規定を置く意味が乏しいですし、あえてそのような規定を置くことによって、かえって、短期賃貸借であるなら、未成年者でも、単独で有効に契約できるとの誤解を生じかねません。
そのような理由から、上記文言が削除されたものです。

3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)
民法第604条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
(2) 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。 」
(解説)

明治民法の起草者は、20年までは賃貸借の規定で、それ以上の長期の物の貸し借りは、地上権の規定や永小作権の規定が利用されるものと期待していました。
しかし、その後の、賃貸借や地上権、永小作権の規定の用いられ方は、貸主の立場の強さから、地上権や永小作権などの強い権利(物権)は避けられ、もっぱら、それより弱い権利(債権)である賃貸借の規定が用いられてきました。
そこで、借地借家法などの特別法によって、賃貸借契約などの場合でも、長期の保護がはかられるようになったのですが、借地借家法(その前身である借地法、借家法を含む)は、もっぱら、建物や建物所有目的の土地の賃貸借に適用が限定されているため、長期間のリース期間を要する大型プラントなどのニーズには、応じることができません。
そこで、所有権に対する超長期の拘束にまではならない上限の期間として、永小作権の長期50年の規定をも参考にしながら、(1)の規定で、上限を20年から50年に引き上げました。
また、(2)の更新後の期間についても、更新から50年を上限としました。

4 不動産賃貸借の対抗力、賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)
民法第605条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
(2) 不動産の賃借人が当該不動産の譲受人に賃貸借を対抗することができるときは、当該不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
(3) (2)の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及び当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
(4) (2)又は(3)後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
(5) (2)又は(3)後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、7(1)に規定する敷金の返還に係る債務及び民法第608条に規定する費用の償還に係る債務は、譲受人又はその承継人に移転する。」
(解説)

(1)は、民法605条の規定を維持した上で、「その後」の言葉を削除し、「その他の第三者」を加えています。前者は、当該不動産の取得時期の前後によって決するのではなく、その不動産について対抗要件を具備した前後で決せされることを明らかにしたものです。また、後者は、物権を取得した者以外に、その不動産を二重に賃借した者や、その不動産を差し押さえた者などを含む趣旨です。
(2)は、借地借家法10条などの対抗要件を備えた賃借権につき、その不動産が譲渡されても、不動産の譲受人が賃貸人たる地位を当然承継するとの判例法理(大判大正10年5月30日)を明文化するものです。
(3)は、賃貸不動産の信託による譲渡等の場面において、賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがあり、そのニーズは、賃貸人たる地位を承継した新所有者の旧所有者に対する賃貸管理委託契約等によっては賄えないとの指摘を踏まえて設けられた規定です(中間試案の補足説明451頁)。ただ、(2)で述べた当然承継に関する判例法理を踏まえ、不動産の譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借契約が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、不動産の譲受人又はその承継人に移転することとし、賃借人の保護をはかっています。
(4)は、賃貸不動産の譲渡によって賃貸人の地位が当然に移転する場合に、当該不動産について所有権移転登記をしなければ、賃借人に対抗できないとの判例法理を明文化したものです。
(5)は、賃貸人の地位の当然承継に伴い、旧賃貸人の費用償還債務や敷金返還債務も当該不動産の譲受人又はその承継人が当然に承継することになる旨を規定しました。ただ、注意しなければならないのは、判例法理(最判昭和44年7月17日)に従えば、新家主が引き継ぐ敷金は、旧家主との間に延滞賃料があれば、それを差し引いた金額だということです。

5 合意による賃貸人たる地位の移転
賃貸人たる地位の移転について、次のような規律を設けるものとする。

「不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、4(4)及び(5)の規定を準用する。」
(解説)

賃貸不動産の譲渡人と譲受人との合意により、不動産賃貸人の地位を譲受人に移転することができる旨を定めるものです。
改正要綱の第22の契約上の地位の移転の条項によれば、賃貸借契約における賃貸人の地位の移転には、契約の相手方である賃借人の承諾が必要ですが、当該不動産の譲渡に伴う賃貸人地位の移転については、その例外として、賃借人の承諾が不要であることを規定しています。
不動産の所有権の譲渡を伴わない賃貸人の地位の移転についても、実務上のニーズがあり、本条は、所有権の移転がなければ賃貸人の地位の移転が認められないものと読むべきではなく、その点は引き続き解釈に委ねられるものと思われます(中間試案の補足説明455頁)。

6 不動産の賃借人による妨害排除等請求権
不動産の賃借人による妨害排除等請求権について、次のような規律を設けるものとする。

不動産の賃借人は、賃貸借の登記をした場合又は借地借家法(平成3年法 律第90号)その他の法律が定める賃貸借の対抗要件を備えた場合において、次の(1)又は(2)に掲げるときは、当該(1)又は(2)に定める請求をすることができる。
(1) 当該不動産の占有を第三者が妨害しているとき。
当該第三者に対する妨害の停止の請求
(2) 当該不動産を第三者が占有しているとき。
当該第三者に対する返還の請求
(解説)

対抗要件を備えた不動産賃借権に基づき、賃借人は妨害排除請求や返還請求を認めました。従来の判例法理を明文化したものです。
不法占拠者に対しても、不動産賃借人は、対抗要件を備えないと妨害排除や返還請求が出来ないかどうかは、解釈に委ねているものと思われます。

7 敷金
敷金について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この7において同じ。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
(2) 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは、敷金を当該債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を当該債務の弁済に充てることを請求することができない。 」
(解説)

(1)敷金を定義するとともに、賃貸借終了に伴う敷金返還の時期について、判例が取る明渡時説(すなわち、敷金返還と賃借物明渡しが同時履行の関係にはなく、先に明渡しをしなければならないとの説)の立場を明文化しました。また、賃借権が適法に譲渡されたときには、譲渡されたときに返還義務が生じることも規定しました。
また、敷金は、賃借人が負担する未払い賃料や損害賠償債務を担保するものですから、それらを控除できること、控除した残額を返還すべきであることも規定しています。
(2)は、未払い賃料等について敷金に充当することができるのは賃貸人であり、賃借人には充当を請求する権利がないとの従来の通説の考え方を、明文で明らかにしました