H21・8・6 作成
* この解説は、ある選挙担当者等への講演をもとにしたものですが、ホームページに掲載するにあたり、大幅に内容を削っています。
私は、昭和59年から平成3年まで検事の職にありました。そして、平成3年に弁護士登録をして、平成5年に法律事務所を開業し、現在に至っています。
もちろん、弁護士になってからも選挙違反の弁護はしていますが、ここでは、主として検察官時代の選挙違反捜査の経験を踏まえてお話しします。
まず、捜査では、悪い表現ですが、常に「首を取る」ことが念頭にあります。候補者の首を取ることです。候補者が自ら選挙違反の指示したことを立証することなど至難のわざですから、検察官に与えられた武器は連座制ということになります。
そこでは、候補者に向かっての、いわゆる「突き上げ捜査」が原則です。
また、捜査では、「ひと山」、「ふた山」という言葉がよく使われます。
何のことかというと、選挙違反のお金は上から下に富士山のように広がり、一番下に、たとえばお金をもらった多数の人がいます。捜査の中で、そのような山がいくつもできるので、「ひと山」、「ふた山」という数え方をするのです。
投票日の翌日から選挙違反の容疑者の逮捕がはじまります。特段の事情がなければ、それから約1か月か1か月半が捜査期間の標準的な期間です。
下から突き上げ捜査をしていくと、被疑者の山が「ひと山」、「ふた山」とできてきます。それを各検察官が担当するのです。それがどこまで上に伸びるかが勝負と言えますが、どうしても自白に頼った捜査になり、被疑者は善良な市民ばかりなので、容易に自白するところがあります。それが誤った方向に行ったのが、鹿児島の大量無罪事件でしょう。
金銭の授受は隠れて行われるので、自白が最重要証拠となり、それを裏付ける「前足と後足」、それに「アリバイ」の有無が重要となります。前足とは金銭の出所であり、後足とは、金銭の費消先です。
ただ、選挙の捜査は、一定の時期が来ると、突然に幕引きが生じるという印象でした。
犯罪白書などを見ると、検挙件数における買収事案の減少と選挙妨害・不正投票事件の増加が顕著です。
また、文書事案では、掲示の事件が少なく、頒布が多いことがわかりますが、これは、掲示の場合は、警告だけで済むことが多いからでしょう。
つまり、不特定多数への文書図画の配布が頒布ですが、その罪は、それだけで成立してしまい、見つけたら即摘発になりやすいのです。これに対し、掲示は、文書図画を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることですが、一定期間の時間の経過があるので、警告に親しみやすいと言えます。それで、警告で掲示をやめれば立件がない。頒布は、そうはいかないということです。
統計からの教訓としては、警告にはすなおに従うことです。
また、文書図画の内容等に自信がないときは、もよりの選管に確認することをおすすめします。