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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(3) 第4 代理

5 自己契約及び双方代理等(民法第108条関係)
旧民法第108条の規律を次のように改める。

108条 同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
   2 前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
(解説)

自己契約とは,自分が当事者となる契約について,その相手方の代理人となることであり,双方代理とは,当事者双方の代理人となることです。
旧民法108条の規定には,自己契約及び双方代理をした場合の効果に関する明文規定がなかったのですが,判例により,後から追認することができるとされていました。
改正法は,自己契約や双方代理の効果が無権代理であることを明記しました。また,但書では,旧民法108条但書の規定をそのまま引き継ぎました。
大審院昭和7年6月6日判決は,借家人が家屋の賃貸借を締結する際,家主と借家人との間で紛争が起きた場合には,家主に,借家人の代理人を選任することを予め委任する旨の契約を結んでいた事案につき,108条の趣旨を援用して,このような委任契約を無効としました。すなわち,民法108条は,形式的に自己契約や双方代理を禁じているだけでなく,実質的な利益相反行為を禁じている趣旨だと解釈されていたのです。
そのような判例の趣旨を受けて,2項の規定がもうけられました。

6 代理権の濫用
代理権の濫用について,次のような規律を設ける。

107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しない者がした行為とみなす。
(解説)

たとえば,代理人が私腹をこやすために(代理権濫用の目的)相手方と契約したとしても,それが,代理人の代理権の範囲内の行為であれば,本人に効果が帰属するのが原則です。しかし,相手方が代理人の意図を知っているような場合にまでその原則を貫くと,不当な結果が生じるので,そのような場合に,最高裁判所は,民法93条但書を類推適用して,代理行為の効果を否定していました(最判昭和42年4月20日判決)。
このような判例の法理を,無権代理構成を用いて,明文で規定したのが,本条です。

7 代理権授与の表示による表見代理(民法第109条関係)
旧民法第109条の規律を次のように改める。

109条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
   2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。
(解説)

1 1項で,表見代理に関する民法109条を維持しました。
2 2項で,従前の判例でも認められていた民法109条と民法110条の重畳適用を,明文をもって認めました。

8 代理権消滅後の表見代理(民法第112条関係)
旧民法第112条の規律を次のように改める。

112条 他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
   2  他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。
(解説)

1項で,表見代理に関する民法112条の表現を整理し,「善意」についても,「代理権消滅の事実を知らなかった」と規定し,その意味を明確にしました。
2項で,従前の判例でも認められていた民法112条と民法110条の重畳適用を,明文をもって認めました。

9 無権代理人の責任(民法第117条関係)
旧民法第117条の規律を次のように改める。

117条 他人の代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明したとき,又は本人の追認を得たときを除き,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
   2 前項の規定は,次に掲げる場合には,適用しない。

     1 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
     2 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,この限りでない。
     3 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
(解説)

1項は,追認についての立証責任が代理人にあることを明確にするなど,表現を改めたうえで,民法117条の規律を維持しています。
2項も,旧民法117条2項を維持したうえで,無権代理人に対して責任を追及できない場合として,従前から規定されている1号,3号のほかに,2号の場合を追加しました。
2号は,代理人として契約をした者に代理権がなかったことを相手方が過失によって知らなかった場合でも,無権代理人側で,自己に代理権がないことを知っていた(すなわち悪意の)場合には,相手方が無権代理人に対し,無権代理人としての責任を追及できることとしています。

以上