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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(7) 第10 履行請求権等 第11 債務不履行による損害賠償

第11 債務不履行による損害賠償

1 債務不履行による損害賠償とその免責事由(民法第415条関係)
旧民法第415条の規律を次のように改める。

415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が,契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
(解説)

旧民法415条は,フランス法に由来する規定と言われていますが,その後,いわゆる「学説継受」と呼ばれ,フランス法に由来する民法の規定をドイツ流に解釈する考え方が主流となったため,債務不履行を,履行遅滞,履行不能及び不完全履行の3類型に分ける考え方が強くなりました。
ところが,その後,債務不履行を一元的に見る解釈が有力となっていますが,改正法は,債務不履行を一元的に捉える考え方を否定されていないと評されています(潮見佳男著・民法(債権関係)改正法の概要67頁)。
というのも,改正法では,その前段で,「債務の本旨に従った履行をしたいとき」と「債務の履行が不能であるとき」を「又は」でつないでいるものの,改正法の但書では,「その債務不履行が」と一元的に規定されているからです。
いずれにしても,改正法は,前段が,債務不履行の要件を定めたもの,後段が,損害賠償責任が免責されるのはどのような場合かを規定するとともに,免責事由の主張・立証責任が債務者にあることを示しています。
また,免責事由は,契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由とされており,過失を意味するものではありません。
ただ,従来の判例実務もこれまで同様の処理をしてきており,実務に大きな影響を与える改正ではないと思われます。

2 債務の履行に代わる損害賠償の要件
債務の履行に代わる損害賠償の要件について,次のような規律を設ける。

415条2項 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
     1 債務の履行が不能であるとき。
     2 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
     3 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(解説)

履行に代わる損害賠償のことを「填補賠償」といいますが,旧法では特段の規定がなく,解釈に委ねられていました。
改正法は,(1)履行不能のとき,(2)債務者が履行拒絶の意思を明確に表示したとき,(3)契約解除がなされ,又は債務の不履行による契約解除権が発生したときに,填補賠償を認めることとしました。
填補賠償がどのような場合に認められるかに付き,解釈の対立があった部分につき,その要件を明確にしたのです。
また,履行不能か契約が解除されなければ,填補賠償の請求を認めないとの解釈もありましたが,改正法2項3号は,解除をせずに填補賠償を請求することを認めていますので,履行請求と填補賠償の請求とが併存する事態が生じることになります(潮見前掲69頁)。

3 不確定期限における履行遅滞(民法第412条第2項関係)
旧民法第412条第2項の規律を次のように改める。

412条2項 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
(解説)

期限の定めのない債務につき,民法412条3項は,期限を定めなかったときは,債権者から請求を受けた時点から遅滞の責任を負うことになっています。それとの均衡から,不確定期限についても,債権者から請求を受けた時から遅滞の責任を負うべきであるとの考え方が有力でしたが,改正法は,それを明文化し,請求を受けたときか,債務者が期限の到来を知ったときの,いずれか早い方から遅滞の責任を負うことにしました。

4 履行遅滞中の履行不能
履行遅滞中の履行不能について,次のような規律を設ける。

413条 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
   2 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
(解説)

1 改正法1項は,履行遅滞に陥っているときに,当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務が履行不能になったときに,債務者の責に帰すべき事由によるものとみなすことにしました。
2 改正法2項は,受領遅滞中の履行不能の場合に,「債権者の責めに帰すべ事由による履行不能とみなし」て,債権者が契約を解除できないこと(改正民法543条参照),双務契約にあっては反対債務の履行を拒絶することができないこと(536条2項参照)を示しています。