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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(15) 第23 弁済

30・8・16

本項が取り上げる範囲

第23 弁済

第23 弁済

1 弁済の意義
弁済の意義について,次のような規律を設けるものとする。

473条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは,その債権は,消滅する。

(解説)

弁済は,債権の消滅原因の典型です。ところが,旧民法における弁済の規定の最初の条文であった旧民法474条は,いきなり,「債務の弁済は,第三者もこれをすることができる。」と規定し,最も基本的な条項であるはずの,弁済によって債権が消滅する旨の規定を欠いていました。
そこで改正法は,473条に,弁済によって債務が消滅するとの,基本となる条項を新設したのです。

2 第三者の弁済(民法第474条関係)
旧民法第474条の規律を次のように改める。

474条 債務の弁済は,第三者もすることができる。
   2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは,この限りでない。
   3 前項に規定する第三者は,債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において,そのことを債権者が知っていたときは,この限りでない。
   4 前3項の規定は,その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき,又は当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたときは,適用しない。

(解説)

1 1項は,第三者による弁済が有効であることを規定しています。

2 2項は,「利害関係を有しない」としていた民法474条2項の文言を「正当な利益を有する者でない」と変更し,弁済者代位における法定代位の要件に合わせた上で,弁済について正当な利益を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない(従って弁済は無効)ものとしました。しかし,債権者において,債務者の意思に反することを知らないで弁済を受領した場合には,その弁済は有効になります。住宅ローンをかかえた債務者が行方不明で,その債務者の親が,子どものために銀行に返済に来たときに,債務者の意思を確かめない限り,銀行が返済を受けられないのでは困る,ということもあり,そのような例外規定を設けたのです。

3 3項は,正当な利益を有しない第三者は,債権者の意思に反して弁済ができないことを規定しています。なぜなら,債務者の意思には必ずしも反しないかも知れないが,反社会的な勢力が債務者に代わって第三者弁済をすると債権者に迫った場合に,債権者においてそれを拒めなければ,問題が生じます。弁済による代位によって,債権者は,そのような者と接点を持つことになってしまうからです。
但し,その第三者が債務者の委託を受けており,そのことを債権者も知っている場合には,債権者の意思に反しても,第三者弁済ができることになります。

4 4項は,債務の性質が第三者弁済を許さない場合や,当事者が第三者による弁済を禁止ないし制限した場合には,1項ないし3項の規定を適用しないものとしました。旧民法474条1項但書と同趣旨の規定です。

3 弁済として引き渡した物の取戻し(民法第476条関係)
旧民法第476条を削除する。
(解説)

旧民法476条は,適用場面が代物弁済契約に限られているものと考えられる上,制限行為能力者の保護を目的とする行為能力制度の趣旨からも,問題が多い規定であるため,削除することとしたものです。

4 債務の履行の相手方(民法第478条・第480条関係)
(1) 受領権限のない者に対する弁済の効力(民法第478条関係)
民法第478条の規律を次のように改める。

478条  受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者と認められる外観を有するものに対してした弁済は,その弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,その効力を有する。


(2) 旧民法第480条を削除する。
(解説)

旧民法478条は,いわゆる債権の準占有者に対する支払いに関する規定が置かれていました。
しかし,物権法における占有概念を借用した「債権の準占有者」という概念は分かりづらいものであったため,債権者でない者にした弁済がどのような場合に有効となるかにつき,本条によってその表現を改めました。
また,債権の準占有者の概念を判例が比較的広く解釈しているため,受取証書の持参人への弁済についての特別規定を置く意義が減少している上,受取証書以外にも,受領権限を証明する方法があり,受取証書についてのみ,特別の規定を置く必要性が低いと考えられたことから,旧民法480条を削除することとしました。
今後は,受取証書の持参人への支払いについては,改正民法478条の適用事例として処理されることになります。

5 代物弁済(民法第482条関係)
旧民法第482条の規律を次のように改める。

482条  弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が,債権者との間で,債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において,その弁済者が当該他の給付をしたときは,弁済と同一の効力を有する。

(解説)

代物弁済契約が要物契約ではなく,諾成契約であることを明らかにし,同時に,代物弁済によって債務が消滅するのは,当該他の給付をしたときであることを明示しました。
このように,要物契約ではなく,諾成契約であるとした場合,債権者は当初の給付を請求することができることになりますが,債権者が当初の給付を請求したときに,債務者が代物の給付をできるのか,債権者が代物を請求した時に,債務者が当初の給付をすることができるのかは,いずれも個々の代物弁済契約の解釈によることになります。