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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(15) 第23 弁済

6 弁済の方法(民法第483条から第487条まで関係)
(1) 特定物の現状による引渡し(民法第483条関係)
旧民法第483条の規律を次のように改める。

483条 債権の目的が特定物の引渡しである場合において,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。


(2) 弁済の時間
弁済の時間について,次のような規律を設ける。

484条2項 法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,弁済をし,又は弁済の請求をすることができる。


(3) 受取証書の交付請求(民法第486条関係)
旧民法第486条の規律を次のように改める。

486条 弁済をする者は,弁済と引換えに,弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。


(4) 預貯金口座への振込みによる弁済
預貯金口座への振込みによる弁済について,次のような規律を設ける。

477条  債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は,債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に,その効力を生ずる。

(解説)

483条は,主として法定債権において,どのようなものを引渡すべきかについての規律を定めたものです。売買の場合には,種類・品質・数量が契約の内容に適合していることが典型的な債務の内容になるため,本条が適用される余地がないからです(潮見著民法改正法の概要182頁参照。)
484条1項は,取引時間に関する商法520条の規定が商取引に特有なものではなく,かつ,これまで民法には,取引時間に関する規律がなかったことから,新設したものです。
486条は,弁済者に受取証書の請求権を認めるとともに,受取証書の交付と弁済が同時履行の関係にあるとの判例の立場を明文化したものです。
477条は,預貯金口座への振り込みという,一般的に行われている弁済方法について,規定がなかったため,新設したものです。
同条は,振込による弁済の効力発生時期を,債権者が預貯金の払戻しを請求する権利を取得したときとしました。

7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)
(1) 旧民法第491条の規律を次のように改める。

489条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては,同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,これを順次に費用,利息及び元本に充当しなければならない。
   2 前条の規定は,前項の場合において,費用,利息又は元本のいずれかの全てを消滅するのに足りない給付をしたときについて準用する。


(2) 合意による弁済の充当について,次のような規律を設ける。

490条  前2条の規定にかかわらず,弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い,その弁済を充当する。

(解説)

本条は,一個又は数個の債務について元本のほか利息および費用を支払うべき場合についての充当のルールを定めたものである。その内容は,旧民法491条と本質的に同じです。
改正法は,まず弁済の充当が問題となる場合が,
① 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき,
② 債務者が一個又は数個の債務についての元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたとき,
のいずれかであることを明文化しています。
その上で,このうち①については,当事者の一方の指定によって充当することが可能であるが,当事者の指定がない場合には法定の充当の方法により充当されることを明文化しています(488条)。
また,②については,指定充当することができず,費用,利息,元本の順序で充当されることとし,その上で,充当の結果,その一部が消滅しない費用,利息又は元本については,それが複数あるときは,まずは当事者の指定によって充当することが可能であるが,当事者の指定がない場合には法定の方法により充当されるとしています(489条)。
さらに,①と②のいずれの場合についても,弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い,その弁済を充当することを明文化しています(490条)(一問一答190頁)。

8 弁済の提供(民法第492条関係)
旧民法第492条の規律を次のように改める。

492条 債務者は,弁済の提供の時から,債務の履行をしないことによって生ずべき責任を免れる。

(解説)

民法492条については,書きぶりは異なりますが,内容的に変化はありません。債務の履行をしないことによって生ずべき責任を免れるとは,基本的には,債務不履行責任を免れ,契約解除をされないことを意味します。

9 弁済の目的物の供託(民法第494条から第498条まで関係)
(1) 旧民法第494条の規律を次のように改める。

494条 弁済者は,次に掲げる場合には,債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては,弁済者が供託をした時に,その債権は,消滅する。
     1 弁済の提供をした場合において,債権者がその受領を拒んだとき。
     2 債権者が弁済を受領することができないとき。

   2 弁済者が債権者を確知することができないときも,前項と同様とする。ただし,弁済者に過失があるときは,この限りでない。


(2)旧民法第497条の規律を次のように改める。

497条 弁済者は,次に掲げる場合には,裁判所の許可を得て,弁済の目的物を競売に付し,その代金を供託することができる。
   1 弁済の目的物が供託に適しないとき
   2 その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
   3 その物の保存について過分の費用を要するとき。
   4 前3号に掲げる場合のほか,その物を供託することが困難な事情があるとき。


(3) 旧民法第498条の規律を次のように改める。

498条 弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができる。
   2 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。(旧民法第498条と同文)

(解説)

494条は,供託の要件につき,債権者の受領拒絶による供託につき,判例法理に従って,供託の要件として弁済の提供が必要であることを明記するなど,規定を整備しました。
497条は,いわゆる自助売却の規定につき,2号の要件に「その他の事由による価格低落のおそれ」を加え,さらに,4号として,「その物を供託することが困難な事情があるとき」との規定を設けるなどして,柔軟な対応ができるようにしました。
498条は,債権者による供託物還付請求の要件を定めました。

10 弁済による代位
(1) 弁済による代位の要件(民法第499条・第500条関係)
旧民法第499条及び第500条の規律を次のように改める。

499条 債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。


500条 民法第467条の規定は,前条の場合(弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する場合を除く。)について準用する。


(2) 弁済による代位の効果(民法第501条前段関係)
旧民法第501条前段の規律を次のように改める。

501条 前2条の規定により債権者に代位した者は,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
   2 前項の規定による権利の行使は,債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り,することができる。


(3) 法定代位者相互間の関係(民法第501条後段関係)
旧民法第501条後段の規律を次のように改める。

501条第3項 第1項の場合には,前項の規定によるほか,次に掲げるところによる。
      1 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は, 保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
      2 第三取得者の一人は,各財産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
      3 前号の規定は,物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
      4 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。(旧民法第501条後段第5号と同文)
      5 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,第三取得者とみなして第1号及び第2号の規定を適用し,物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,物上証人とみなして,第1号,第3号及び前号の規定を適用する。


(4) 一部弁済による代位の要件・効果(民法第502条関係)
旧民法第502条第1項の規律を次のように改める。

502条 債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる。
   2 前項の場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる。
   3 前2項の場合に債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する。


(5) 担保保存義務(民法第504条関係)
旧民法第504条の規律を次のように改める。

504条 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位権者は,代位をするにあたって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において,その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において,その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても,同様とする。
   2 前項の規定は,債権者が担保を喪失し,又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは,適用しない。

(解説)

(1)は,弁済による代位の要件を定めたものです。弁済者代位には,任意代位と法定代位の二つがあり,旧民法499条1項は,任意代位について,債権者の承諾を要求していました。
しかし,その合理性には異論があり,改正法では,任意代位についても,債権者の承諾は不要となりました。
従って,任意代位と法定代位の違いは,後者なら当然に代位するのに対し,任意代位の場合には,債権譲渡の対抗要件の具備を要する(民法467条の準用)ことぐらいです。

(2)は,代位の効果を規定しています。民法501条前段と同様の規定です。
改正法は,共同保証人間でも債権者に代位することができるが,他の共同保証人への代位の範囲については,501条2項括弧書きに規定を設け,民法465条によって取得する求償権の範囲に制限されるものとしました。解釈が分かれていた点について,立法的に解決したものです。

(3)は,法定代位者相互間の規律を設けています。民法501条1号で規定されていた代位の付記登記の要件を不要とし,5号で物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者を物上保証人とみなすなど,一定の整理をしています。

(4)は,一部弁済による代位の要件・効果を定めています。
大審院の判例(大決昭和6年4月7日)は,代位者が単独で抵当権の実行ができる旨解釈していましたが,本来の権利者である債権者が,抵当権実行による換価時期の選択ができないなどの批判がありました。
そこで,改正法は,上記判例法理を変更し,代位者による単独での権利行使を認めないこととしました。
また,判例(最判昭和60年5月23日)は,担保権実行により物上保証人に一部代位が生じた場合につき,債権者優先主義の考え方を取っています。
改正法は,502条3項において,「債権者が行使する権利は,その担保の目的となっている財産の売却代金その他当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する。」と規定し,債権者優先主義の考え方を明文化しました。

(5)は,担保保存義務について定めています。民法504条を基本的に維持し,判例法理をもとに所定の規定を設けています。

以上