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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(16) 第24 相殺 第25 更改

30・8・16

本項が取り上げる範囲

第24 相殺
第25 更改

第24 相殺

1 相殺禁止の意思表示(民法第505条第2項関係)
民法第505条第2項の規律を次のように改める。

505条2項  前項の規定にかかわらず,当事者が相殺を禁止し,又は制限する旨の意思を表示した場合には,その意思表示は,第三者がこれを知っていたとき又は重大な過失により知らなかったときに限り,その第三者に対抗することができる。

(解説)

民法505条2項但書は,相殺禁止の意思表示について,善意の第三者に対抗できないとしていました。改正法は,その規定を,悪意又は重大な過失により知らないときに限り対抗できるとして,債権譲渡における譲渡禁止特約と平仄を合わせることにしました。

2 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止(民法第509条関係)
旧民法第509条の規律を次のように改める。

509条 次に掲げる債務の債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし,その債権者がその債務に係る債権を他人から取得したものであるときは,この限りでない。
   1 悪意による不法行為に基づく損害賠償に係る債務
   2 人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償に係る債務(前号に掲げるものを除く。)

(解説)

旧民法509条は,「債務が不法行為によって生じたときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。」と規定し,不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺を全面的に禁止していました。
しかし,相殺を禁止する趣旨との関係で,改正法は,不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺につき,その適用場面を見直し,(1)悪意による不法行為に基づく損害賠償に係る債務と,(2)人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償に係る債務((1)に該当する者を除く)の二つに絞りました。
そのうち,1項の条項の表現ぶりは,破産法253条1項2号の非免責債権の規定でも用いられており,そこでの解釈が参考にされるものと思われます。
2号については,人の生命又は身体の侵害に関するものであれば,不法行為によるものだけでなく,安全配慮義務違反などの債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合にも適用があるものと解されます。
いわゆる交叉的不法行為についても民法509条が適用されるかは,引き続き解釈に委ねられています。

3 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺(民法第511条関係)
旧民法第511条の規律を次のように改める。

511条 差押えを受けた債権の第三債務者は,差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが,差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
   2 前項の規定にかかわらず,差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは,第三債務者は,当該債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし,差押え後に他人の債権を取得したものであるときは,この限りでない。

(解説)

判例は,最高裁昭和45年6月24日大法廷判決以来,無制限説を採用し,実務もそれで安定していることから,改正法は,判例の立場を明文化しました。
また,差押え前の原因に基づいて差押え後に自働債権を取得した場合にも相殺を拡張しています。破産法の相殺に関する規定ぶりにならったものです。但し,差押え後に他人の債権を取得した場合には,相殺は認められません。

4 相殺の充当(民法第512条関係)
旧民法第512条の規律を次のように改める。

512条 債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と,債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について,債権者が相殺の意思を表示した場合において,当事者が別段の合意をしなかったときは,債権者の有する債権とその負担する債務は,相殺に適するようになった時期の順序に従って,その対当額について相殺によって消滅する。
   2 前項の場合において,相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときは,当事者間に別段の合意がない限り,次に定めるところに従い,充当する。
     1 債権者が数個の債務を負担するとき(次号に規定する場合を除く。)は,民法第489条第2号から第4号までを準用する。
     2 債権者が負担する一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは,民法第489条の規定を準用する。この場合において,その債務の費用,利息及び元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは,民法第489条第2号から第4号までを準用する。
   3 第1項の場合において,相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときも,前項の規定をを準用する。

(解説)

(1)は,相殺の充当について,充当合意を優先するとともに,充当合意がない場合には,相殺適状が生じた順番で相殺の対象とすることにしました。
(2)は,相殺をする債権者が有する債権が,債権者の負担する債務の全部を消滅するに足りない場合につき,相殺の対象が決まった後の充当に関するルールを定めました。
(3)は,債権者が相殺をした場合に,相殺をする債権者の負担する債務が,債権者が有する債権の全部を消滅させるに足りない場合の処理に付き,相殺の充当そのものの問題ではないのですが,相殺に関する法定充当の規定を準用することとしました。