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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(18) 第30 売買 第31 贈与

27・5・9

本項が取り上げる範囲

第30 売買
第31 贈与

第30 売買

1 手付(民法第557条関係)
民法第557条第1項の規律を次のように改めるものとする。

「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」
(解説)

手付が解約手付の意味を有するとの現行民法の規定を維持した上で、その規定を、従来の判例に則して整備しました。
すなわち、従来の判例では、解除の意思表示に際して、売主は、倍額を現実に提供する必要があるとしていましたが、そのことを規定の上でも明記しました。
また、現行民法では、「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」、と規定されているので、履行に着手した当事者も手付解除ができなくなるのか、という疑義が生じていましたが、従来の判例と同様に、「相手方が履行に着手した後」は、手付解除ができなくなると明記しました。

2 売主の義務
売主の義務について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(2) 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。 」
(解説)

(1)では、民法560条の、他人物売買において、売主が、他人から権利を取得してこれを買主に移転する義務の規定を維持するとともに、権利の一部が他人に属するときも、売主に、同様の義務があることを明らかにしました。
(2)では、売主の義務として、登記、登録が対抗要件となっているものの売買による権利移転について、買主が対抗要件を具備するのに必要な行為をすべき義務があることを明らかにしました。従前の解釈でも、売主の義務として当然のことと解釈されていたことを、明文化したものです。

3 売主の追完義務
売主の追完義務について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
(2) (1)の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、(1)の規定による履行の追完の請求をすることができない。」
(解説)

改正法は、いわゆる瑕疵担保責任に関する法定責任説を否定し、いわゆる契約責任説を採用するとともに、従来の民法で使われていた、「瑕疵」という言葉そのものを、意図的に条文から排除しました。
すなわち、従来の法定責任説は、特定物については、たとえ瑕疵があっても、その瑕疵があるものを給付すれば、債務は履行されたものとしていました(いわゆる「特定物ドグマ」)。しかし、それでは、有償双務契約である売買において、売主と買主の間の均衡を失するので、法が特に売主に認めた責任が、瑕疵担保責任だと解釈されていたのです。ですから、瑕疵担保責任は、瑕疵ある特定物について、法が特別に認めた法定責任であるにすぎないから、特定物につき、債務不履行における追完請求権はないと解釈されていました。
改正法は、このような法的責任説の立場を否定し、契約責任説の立場を採用し、特定物、不特定物を問わず、追完請求権があることを明記するとともに、現行民法では、「種類、品質」面での瑕疵と「数量」面での瑕疵を別個に扱っていたものを、権利行使期間の点を除いて同列に扱うこととしています。
また、改正法は、物に関する「種類、品質及び数量」の契約不適合性を本項で規定し、権利に関する契約不適合性を、後記6で規定するという、構成を取っています。
この両規定から導き出されることは、売主は買主に対し、契約内容に適合した「権利」や契約内容に適合した「種類、品質又は数量の物」を引渡す義務があるということが、当然の前提とされている、ということです。売主の義務としてこれらのものがあることを前提として、それが欠けた場合に、買主には、売主に対して追完請求権を有する、と考えるのです。
また、現行民法では、「隠れた瑕疵」という文言が使用されており、「隠れた」の解釈として、買主の、瑕疵についての善意・無過失とされていました。
しかし、種類、品質に関する契約不適合性を判断するためには、契約内容を解釈し、契約内容を確定することが不可欠ですが、その解釈のなかに、買主の種類、品質に関する善意・無過失も包摂されると考えられたからか、「隠れた瑕疵」の文言は要綱では使われておりません。
なお、「種類、品質」の契約不適合性と「数量」の契約不適合性を同列に扱うといっても、権利の期間制限については差異をもうけていることについては、後述の7のとおりです。
(1)では、目的物が、種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるときに、買主側の選択により、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できることを規定しています。但し、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完を売主に認めています。
また、(2)では、その不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものである場合には、追完請求が認められない、と規定されていますので、注意して下さい。

4 買主の代金減額請求権
買主の代金減額請求権について、民法第565条(同法第563条第1項の準用)の規律を次のように改めるものとする。

(1) 3(1)本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
(2) (1)の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、(1)の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
ア 履行の追完が不能であるとき。
イ 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
ウ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行をしないでその時期を経過したとき。
エ アからウまでの場合のほか、買主が(1)の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
(3) (1)の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、(1)及び(2)の規定による代金の減額を請求することができない。 」
(解説)

現行民法は、権利の一部が他人に属する場合(民法563条)と、数量指示売買における物の不足及び物の一部が契約時に滅失していた場合(いずれも565条が563条を準用)に、それぞれ、買主に、代金減額請求を認めています。
これに対し、要綱は、引渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合に、買主が、不適合の割合に応じての代金の減額請求を、広く認めました。
そのうち、(1)は、相当期間内に追完するように催告をしたが応じない場合の減額請求を、(2)は、無催告での減額請求ができる場合を規定しています。
(2)の規定ぶりは、第12の2の無催告解除の要件と類似しています。これは、要綱が、代金減額請求を、契約の一部解除と同様に考えていることによるものと思われます。
ですから、契約解除に関する第12の4と同様に、(3)において、契約内容不適合が買主の責に帰すべき事由による場合には、代金減額請求が出来ない旨を規定しています。

5 損害賠償の請求及び契約の解除
損害賠償の請求及び契約の解除について、民法第565条(同法第563条第2項及び第3項の準用)及び第570条本文(同法第566条第1項の準用)の規律を次のように改めるものとする。

「 3及び4の規定は、第11の1及び2の規定による損害賠償の請求並びに第12の1から3までの規定による解除権の行使を妨げない。 」
(解説)

本要綱は、第30の3の追完請求権の行使や、第30の4の代金減額請求権の行使は、損害賠償請求や解除権の行使を妨げないと規定しています。
すなわち、種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものを売主が買主に引き渡した場合に、第11の債務不履行に基づく損害賠償請求や、第12の債務不履行による契約解除ができる旨を規定しているのです。
このことからも、要綱が、いわゆる契約責任説を採用していることがわかります。

6 権利移転義務の不履行に関する売主の責任等
権利移転義務の不履行に関する売主の責任等について、民法第561条から第567条まで(同法第565条、第567条第2項及び期間制限に関する規律を除く。)の規律を次のように改めるものとする。
「3から5までの規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。 」
(解説)

要綱は、契約責任説の立場に立ち、権利に関する契約不適合についても、目的物の種類、品質又は数量に関する契約不適合の場合と同じ救済を買主に与えることを明記しました。
改正法が、種類、品質及び数量に関しての契約不適合性については、上記3に規定し、権利に関する契約不適合性については、本項に規定していることは、すでに上記3で述べたとおりです。
また、上記3から5を準用しているので、3の追完請求権、4の代金減額請求権があり、5で、債務不履行による損害賠償請求や解除が認められる場合があることも、上記3と同様です。