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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(5) 第7 消滅時効

3 職業別の短期消滅時効等の廃止
旧民法第170条から第174条までは削除されました。
(解説)

すでに述べたように,国際的な消滅時効に関する単純化・短縮化傾向を意識し,合理性が疑わしい短期消滅時効の制度を廃止しました。
ところで,平成16年に,民法の第1編から第3編までが現代語化されました。
その現代語化前の短期消滅時効に関する規定として,旧民法173条2号があり,同号によれば,「居職人及ヒ製造人ノ仕事ニ関スル債権」が2年で時効消滅することになっていました。
同号の規定は,「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権」と現代語化され,その規定は現代語化後の旧民法にも残っていました。
その,現代語化前の旧民法173条2号の規定につき,以下のような判例がありました。すなわち,資本金4480万円で従業員230名を擁し,高度な印刷技術を要する高級印刷物の印刷販売を目的とする相当規模の会社における代金債権の消滅時効につき,最高裁昭和44年10月7日判決は,このような相当規模の印刷会社は,民法173条2号の「製造人」に該当しないと判断しました。「製造人」に関する短期消滅時効の規定が,このような規模の会社(従って帳簿組織も整っていると思われる。)に適用されることの不合理さを考え,「製造人」の規定を限定的に解釈したものと思われます。
このように,民法の短期消滅時効の規定は,規定の文言そのものが時代にそぐわなくなってきていること,その規定における,3年,2年,1年の短期消滅時効期間の区別につき,合理的な根拠が見出せないこと,時効管理の実務の面でも過大な負担が生じていることが想定されます。
このような弊害が生じていることから,改正民法は,債権の消滅時効につき,主観的起算点から5年,客観的起算点から10年に原則的に統一し,短期消滅時効の規定が削除されることとなったのです。

4 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係)
旧民法第724条の規律を次のように改めました。

724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
   1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
   2 不法行為の時から20年間行使しないとき。
(解説)

民法724条の不法行為債権に関する消滅時効の規定に関し,最高裁判所平成元年12月21日判決は,長期20年の期間を除斥期間と判断し,20年を経過したとの主張に対し,信義則違反や権利濫用の主張をすることは許されない旨判示しました。
しかし,もし判例のように,20年の期間を「除斥期間」と解すると,当事者の援用を待たずに権利消滅の判断ができると同時に,旧民法で規定されていた時効消滅の場合のように,中断や停止の制度もありません。
そして,現実に,そのように20年を除斥期間と解し,停止の制度の適用もないとすると,著しく不合理な結果が生じる事案が出てきました。
その一つは,生後5か月で受けた痘そうの集団接種により知的障害となり,寝たきりのまま経過し,提訴の時には,不法行為の時から22年を経過していた事案です。最高裁は,20年の経過をもって加害者が損害賠償義務を免れる結果となるのは正義・公平の理念に反するとし,民法158条の時効停止の法意を根拠に,除斥期間経過による権利消滅の効力が生じることを否定しました(最高裁平成10年6月12日判決)。
また,二つ目は,殺人犯が遺体を床下に隠して殺害から20年以上を経過した事案につき,同じく時効の停止(民法160条)の法意から,除斥期間の経過による権利消滅の効力が生じない旨を判示しました(最高裁平成21年4月28日判決)。
このようなことから,改正法は,「20年間権利を行使しないとき。」も,除斥期間ではなく,時効消滅することを明記したのです。
なお,契約に基づく損害賠償請求か不法行為に基づく損害賠償請求かが争われるような案件につき,その法的な性質(請求の際の法律構成)によって消滅時効期間が異ならないように統一を図ることも検討されましたが,次の5の「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」の場合を除き,統一的な規定は設けられませんでした。

5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
人の生命又は身体の侵害による損害賠償の請求権について、次のような規律を設けることとしました。

724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については,同号中「3年間」とあるのは,「5年間」とする。


167条   人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については,同号中「10年間」とあるのは,「20年間」とする。

(解説)

「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」に限り,その保護法益の重要性から,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間を知ったときから3年を5年にしました。 また,「・・・「10年間」とあるのは,「20年間」とする。」との規定は,債権の消滅時効のうち,客観的起算点から10年とする規定を,人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,20年間とするとの意味です。 これによって,契約による損害賠償請求権と,不法行為による損害賠償請求権のいずれについても,「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」の場合の時効期間を伸長しているのです。