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民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(12) 第17 多数当事者

30・8・15

本項が取り上げる範囲

第17 多数当事者

第17 多数当事者

1 連帯債務
民法第432条の規律を次のように改める。

436条 債権の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の一人に対し,又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。
(解説)

旧民法432条からは,どのような場合に連帯債務が発生するかが,条文上明確でありませんでした。改正法は,性質上可分な場合が連帯債務,性質上不可分な場合が不可分債務であることを明確にするとともに,連帯債務が成立するのは,①法令の規定がある場合と,②当事者の意思表示による場合であることを明白にしました。
連帯債務に関する対外的な効力に関する本条の規定は,従前と同様です。

2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(1) 履行の請求(民法第434条関係)

旧民法第434条を削除する。
(解説)

旧民法も,連帯債務者の一人に生じた事由が他の連帯債務者に影響を及ぼすかどうかについて,相対的な効力が生じることを原則としながら,広い範囲で絶対的な効力を認めていました。
しかし,絶対的な効力を広く認めることが,債権者に有利な場合もあるが,連帯債務の担保的な効力を弱め,債権者に不利なことも多いなどの指摘がありました。
そこで,連帯債務の絶対的な効力について見直し,「請求」については,履行の請求を受けていない他の連帯債務者にとって,自分の知らない間に履行遅滞に陥ったり,消滅時効が中断するなど,不利益も大きいことを考え,絶対的な効力事由からはずし,相対的な効力しかないこととし,本条を削除したのです。

(2) 連帯債務者の一人による相殺(民法第436条関係)

民法第436条の規律を次のように改める。

439条 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その
連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。(旧民法第436条第1項と同文)
   2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債
務者の負担部分の限度で,他の連帯債務者は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

(解説)

相殺に関する絶対的効力に関する規定です。1項は,従前と同様の規定ですが,2項は,反対債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,他の連帯債務者は,反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で,履行を拒むことができる,としました。
旧民法の規定は,「その連帯債務者の負担部分についてのみ,他の連帯債務者が援用することができる。」と規定し,その規定ぶりからは,相殺を援用して,債務消滅の効力が生じるとも解釈が可能で,そのように解する古い判例もありました(大判昭和12年12月11日)。しかし,通説は,支払拒絶の抗弁ができるだけと解しており,改正法も,履行拒絶権のみを認める規定ぶりにしました。

(3) 連帯債務者の一人に対する免除及び一人についての時効の完成(民法第437条・民法439条関係)

1 旧民法第437条及び439条を削除する。
2 連帯債務者の一人に対する免除及び一人についての時効の完成について,次のような規律を設ける。

445条  連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人の為に時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の連帯債務者に対し,第442条第1項の求償権を行使することができる。

(解説)

1 免除
旧民法437条の規定を削除し,連帯債務者の一人との間の免除を絶対的効力事由からはずし,相対的な効力しかないものとしました。
また,免除の相対的な効力を前提として,免除があった連帯債務者に対しても,他の連帯債務者から求償請求ができることを明記しました。
しかし,解釈により,免除を受けた連帯債務者が求償に応じたからといって,債権者に対してその分の返還請求を求めることは許されません。なぜなら,債権者は,免除を受けた連帯債務者以外の連帯債務者に対する債権に基づいて支払いを受けたにすぎませんので,弁済が法律上の原因に基づくものとなるため,不当利得の要件を満たさないからです。また,通常は,連帯債務者の一人に免除をしても,他の連帯債務者から全額の履行を受けようと考えており,免除を受けた連帯債務者から債権者への返還請求を認めることは,通常の債権者の意思に反するからです(中舎寛樹著・債権法507頁)。
ただ,そのような解釈に沿う明文の規定は置かれませんでした。

2 消滅時効
旧民法439条の規定を削除し,連帯債務者の一人の消滅時効完成を絶対的効力事由からはずし,相対的な効力しかないものとしました。
また,時効完成について,相対的な効力を前提として,消滅時効が完成した連帯債務者に対しても,他の連帯債務者から求償請求ができることを明記しました。
しかし,解釈により,消滅時効が完成した連帯債務者が他の連帯債務者からの求償に応じたからといって,債権者に対してその分の返還請求を求めることは許されません。なぜなら,債権者は,消滅時効が完成した連帯債務者以外の連帯債務者に対する債権に基づいて支払いを受けたにすぎませんので,不当利得の要件を満たさないからです(中舎前同頁)。ただ,そのような解釈に沿う明文の規定は置かれませんでした。

(4) 相対的効力の原則(民法第440条関係)

旧民法第440条の規律を次のように改める。

441条 民法第438条,第439条第1項及び前条に規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債務者に対する効力は,その意思に従う。

(解説)

連帯債務者の一人に生じた事由について,相対的効力が原則であることを定めたのが改正民法440条の規定です。
ただし,別段の意思を表示したときは,その意思に従うことも規定されています。