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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(14) 第19 債権譲渡 第20 有価証券 第21 債務引受 第22 契約上の地位の移転

2 将来債権譲渡
(1) 将来債権の譲渡性とその効力の限界
将来債権の譲渡性について,次のような規律を設ける。

466条の6 債権の譲渡は,その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
     2 債権が譲渡された場合において,その意思表示の時に債権が現に発生していないときは,譲受人は,発生した債権を当然に取得する。

(解説)

将来債権の譲渡につき,民法は規定を置いていませんでしたが,最高裁は,将来債権である診療報酬債権につき,債権が特定されている限り,有効に譲渡できる旨判示していました(最判平成11年1月29日)。
1項は,この判例法理を明文化したものです。
2項も,将来債権譲渡において,債権が発生したときに譲受人が当然にその債権を取得するという判例(最判平成13年11月22日など)の趣旨を明文化したものです。

(2) 将来債権の譲渡後に付された譲渡制限の意思表示の対抗
将来債権の譲渡後に付された譲渡制限の意思表示の対抗について,次のような規律を設ける。

466条の6第3項 前項に規定する場合において,譲渡人が次条の規定による通知をし,又は債務者が同条の規定による承諾をしたとき(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは,譲受人その他の第三者がそのことを知っているものとみなして,第466条第3項(譲渡制限の意思表示がなされた債権が預貯金債権の場合にあっては,前条第1項)の規定を適用する。

(解説)

将来債権の譲渡であっても,譲渡の時点で対抗要件を備えることができる(467条1項括弧書)。
しかし,債務者対抗要件を備える前に,譲渡人と債務者の間で譲渡制限特約が付されたときは,譲受人は本項によって悪意とみなされて民法466条3項(ただし,預貯金債権の場合は466条の5の1項)が適用されることになり,その特約を譲受人に対抗することができる旨が規定されました(3項)(中舎前掲407〜408頁)。
対抗要件具備時を基準に,それ以前に譲渡禁止特約をしたときには,債務者の利益を優先させることとしたのです。

3 債権譲渡の対抗要件(民法第467条関係)
民法第467条第1項の規律を次のように改める。

467条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。

(解説)

債権譲渡の権利行使要件及び第三者対抗要件につき,旧民法467条の規定を踏襲しました。また,判例は,将来債権の譲渡について,現在債権の譲渡の場合と同様に,譲渡の時点で対抗要件を具備することができ,これにより譲渡の事実を対抗できるものとしていますが(最判平成19年2月15日),467条1項括弧書きの規定は,その判例法理を明文化しました。

4 債権譲渡と債務者の抗弁(民法第468条関係)
(1) 異議をとどめない承諾による抗弁の切断
民法第468条の規律を次のように改める。

ア 民法第468条第1項を削除する。

468条1項 債務者は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

(解説)

旧法の異議を留めない承諾に関する規定を削除しました。異議を留めない承諾は,法律行為ではなく,観念の通知とされ,特に異議がない旨を明示する必要がなく,単に留保を付けずに譲渡の事実の認識を表明するだけでよいとされていました。
しかし,債権が譲渡されたことを認識した旨を通知しただけで,債務者がそれまで行使できた抗弁権をすべて失うとするのは,債務者にとって予期せぬ効果が生じることになり,債務者保護に欠けることになることから,規定を削除したものです。
ただ,債務者がその意思表示により,抗弁権を放棄することまで否定する趣旨ではないと思われます。
468条1項は,権利行使要件である通知・承諾までの坑弁は,債務者において対抗できるものとしました。
判例は,債権譲渡前に解除原因が生じていた場合にも,譲渡後になされた解除を対抗できるとしていますが(最判昭和42年10月27日),次の469条2項1号の趣旨から考えると,改正後も,上記判例の趣旨がなお妥当するのではないかと思われます。

(2) 債権譲渡と相殺
債権譲渡と相殺について,次のような規律を設ける。

469条 債務者は,対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
   2 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であ
っても,その債権が次に掲げるものであるときは,前項と同様とする。ただし,債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは,この限りでない。
     1 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
     2 前号に掲げるもののほか,譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権

(解説)

1項は,対抗要件具備時までに取得した債権での相殺が可能であると規定し,昭和50年12月8日最高裁判決が採用する無制限説の立場を明文化しました。
そして,2項1号の対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権,同項2号の譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権の二つの場合にも相殺が可能としました。
1号は,建物建築請負代金債権が譲渡された場合に,その建築当初からの建物の瑕疵によって生じた損害賠償債権による相殺が考えられます。
2号は,将来の賃料債権が譲渡された場合に,その賃貸借契約における賃借人の必要費償還請求権による相殺が考えられます。