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法改正のコーナー

民法(債権法)改正について

民法(債権法)改正について(24) 第37 雇用 第38 寄託 第39 組合 第40 その他

第38 寄託

1 寄託契約の成立(民法第657条関係)
(1) 要物性の見直し
民法第657条の規律を次のように改めるものとする。
「寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

(2) 寄託者の解除権
寄託者の解除権について、次のような規律を設けるものとする。
「寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受託者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。」

(3) 無償寄託における受寄者の解除権
無償寄託における受寄者の解除権について、次のような規律を設けるものとする。
「無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない。」

(4) 寄託物が引き渡されない場合における受寄者の解除権
受寄者の解除権について、次のような規律を設けるものとする。
「受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。」
(解説)

(1)につき、要綱は、寄託契約を要物契約から諾成契約に変更しました。
(2)は、寄託契約を諾成契約としたことに伴い、有償寄託か無償寄託かに限定せず、受寄者が寄託物を受け取るまでの間は、寄託者は、契約を解除できることにしました。また、その場合に、損害場生じたときには、受寄者は、寄託者に対して損害賠償請求をすることができるものとしました。寄託契約は、寄託者の利益のためになされるものであることから、寄託者が寄託を望まなくなった場合には、契約を継続させる実益に乏しく、受寄者の不利益は、損害賠償によって解決すべきものとされたのです。
(3)は、無償寄託の場合に、受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約解除の権利を認めました。ただし、書面による寄託の場合には、契約に際して慎重な判断があったものとして、解除を認めないこととしました。
(4)は、有償寄託の場合と、書面による無償寄託の場合に、期間内に寄託者が受寄者に寄託物を引き渡さず、相当期間を定めて引渡しを催告したのに、その期間内に引渡しをしない場合に、解除権を認めました。
なお、書面によらない無償寄託の場合には、上記(3)の規定による解除ができるので、(4)では、書面によらない無償寄託の場合を除外しています。

2 受寄者の自己執行義務等(民法第658条関係)
(1) 受寄者の自己執行義務
民法第658条第1項の規律を次のように改めるものとする。
「 ア 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。
イ 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。」

(2) 再受寄者の選任及び監督に関する受寄者の責任
民法第658条第2項の規律を次のように改めるものとする。
「再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。」
(解説)

(1)のアは、民法658条1項と同じ規定です。
(1)のイは、寄託物を第三者に再寄託する場合の要件を、①寄託者の同意を得た場合のほかに、②やむを得ない事由があるときにまで認めました。
委任の場合の復委任の規定と平仄を合わせています。
(2)は、民法658条2項が民法105条を準用し、受寄者の責任を、再受寄者の選任・監督上の過失に限定していましたが、それを改め(準用せず)、要綱では、再受寄者が寄託者に対し、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利義務を負うとし、再受寄者の行為による受寄者の寄託者に対する責任についても、債務不履行一般の規定に処理を委ねることにしました。

3 寄託物についての第三者の権利主張(民法第660条関係)
(1) 受寄者の通知義務
民法第660条の規律を次のように改めるものとする。
「寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。」

(2) 寄託物についての第三者による権利主張
寄託物についての第三者による権利主張について、次のような規律を設けるものとする。
「 ア 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が(1)の通知をした場合又は(1)ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべきことを命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
イ 受寄者は、アの規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。 」
(解説)

(1)は、民法660条の規定を維持し、但書で、寄託者が既に訴え提起などを知っている場合には適用しない旨を規定しました。
(2)は、寄託物についての第三者の権利主張について、上記ア、アの規定を設けました。

4 寄託物の一部滅失又は損傷の場合における寄託者の損害賠償請求権及び受寄者の費用償還請求権の短期期間制限
寄託物の一部滅失又は損傷の場合における寄託者の損害賠償請求権及び受寄者の費用償還請求権の短期期間制限について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受寄者が支出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
(2) (1)の損害賠償の請求権については、寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。 」
(解説)

(1)は、寄託物の一部滅失又は損傷の場合における寄託者の損害賠償請求権及び受寄者の費用償還請求権の権利行使期間を、寄託者が返還を受けたときから1年としました。
(2)は、上記(1)の損害賠償請求権について、寄託者が返還を受けたときから1年が経過するまでは時効が完成しないものとしました。

5 寄託者による返還請求(民法第662条関係)
民法第662条の規律を次のように改めるものとする。

(1)当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。(民法第662条と同文)
(2)(1)に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。」
(解説)

(1)は、受寄者が寄託物をいつでも返還できる旨の民法662条を維持しました。
(2)は、寄託者が返還の時期前に返還を請求したことにより、受寄者に損害が生じた場合に、損害賠償請求を認めることとしました。

6 混合寄託
混合寄託について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。
(2) (1)の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
(3) (2)に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。」
(解説)

(1)は、混合寄託、すなわち、種類及び品質が同一の物を、複数の寄託者から寄託を受ける場合に、各寄託者の承諾が必要であることが規定されました。複数の寄託者の所有物を混合して寄託を受けるためです。
(2)は、混合寄託の場合に、寄託者は、寄託した数量の物の返還請求をすることができる旨を規定しました。所有権に基づく返還請求が、混同の規定によって認められない場合でも、寄託に関するこの規定による返還請求ができることになります。
(3)は、混同寄託の場合に、一部滅失によるリスクを按分して負担することとし、各寄託者に、寄託した数量の割合に応じた返還請求権を認めました。

7 消費寄託
民法第666条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
(2) 第32の5(2)及び(3)並びに民法第592条の規定は、(1)に規定する場合について準用する。
(3) 第32の6の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。 」
(解説)

民法666条の消費寄託に関する規定は、消費貸借の規定を準用しています。
けれども、消費貸借と消費寄託には、その利益状況に違いがあり、現行規定のように、広く消費貸借の規定を準用するのは、適切ではないと言われています。
そこで、(1)に基本となる消費寄託に関する規定を置き、消費貸借の準用規定も必要最小限にしました。
また、預金や貯金契約に関しては、他の寄託契約との違いから、消費貸借の規定である第32の6の規定(いつでも返還をすることができる旨の規定)を準用することとしました。